2011年11月11日 10:21 公開

柔道整復問題「保険請求の3分の1が大阪から」の怪

患者と柔整師が親子関係の場合も

 身近な代替医療として国民に浸透している「柔道整復」だが、患者被害や不正請求の横行、国民医療費の伸びを上回るペースの療養費増加など、のっぴきならない状態になっている。この「柔道整復療養費問題(柔整問題)」について考える日本臨床整形外科学会のシンポジウム「国民の健康と医療制度を考える 行政刷新会議のその後―療養費審査について」が11月6日、東京都で開かれた。柔整療養費の請求額が突出して多い大阪府からは、大阪府医師国民健康保険組合の廣瀬一史理事が登壇。全国医師国保の柔整療養費の3分の1が大阪府からの請求である状態の適正化を目指し、始めた取り組みを紹介した。照会状の送付だけで3割減の効果も見られたという。

療養費は全国で年間3,484億円

 柔整にかかる療養費は、1999年度の2,655億円から伸び続けて08年度には3,484億円と10年で3割増えた(厚生労働省保険局医療課推計)。国民医療費の総額がその間ほぼ横ばいであることを考えると、無視できない規模になっている。

 柔整には、柔道整復師が患者に代わって自己負担分以外の額を保険者に請求できる「受領委任払い」の仕組みがあるが、その給付の対象は本来、医療機関の治療を受けていない外傷(打撲やねんざなど)のみ。神経痛、関節リウマチ、肩凝り、腰痛などの慢性疾患に対するマッサージは給付対象となっていない。

 これを給付対象とするために、肩凝りを「腕や足のねんざ」、関節痛を「3カ所以上の骨折」などと偽り、部位を水増しし、数カ月たったら受傷部位を変える、医師の同意も捏造(ねつぞう)するといった不正が横行しているのが、現在の柔整問題だ。圧迫骨折や悪性腫瘍の見逃しといった患者の健康被害も多くあり、2009年の行政刷新会議事業仕分けでは「見治しが必要」と結論された。その結果、10年度からは、4部位目の給付率が33%からゼロに引き下げられるといった算定見直しが通知されている。

 こうした問題視の影響があってか、これまで増え続けてきた柔整師養成施設数および試験合格者数に、2010年度になって初めて歯止めがかかった。09年度までに104施設定員9,205人だった養成施設数は、10年度には102施設定員8,787人に減少。国家試験合格者数も5,570人(合格率77.8%)から4,592人(同69.3%)に減った。

 膨れ上がる柔整療養費の支払いに悩む保険者側も、対抗策を講じ始めている。かつて「不支給処分などとすると、審査員の個人宅に脅迫電話が掛かってくる。代理業者も嫌がる」と避けられてきた部分だが、保険財政の逼迫(ひっぱく)した状況から重い腰を上げざるを得なくなった状況だ。

負傷部位の質問状を送ったら15%減

 その1つが、大阪府医師国保だ。同国保の組合員(医師)数は6,092人、準組合員(従業員)数は1万1,668人。その家族を合わせると加入者は計約3万人だが、医療費の伸びに加え、前期高齢者納付金や後期高齢者支援金の支払い増加で、組合財政は実質赤字の状態になっている。

 中でも支払額の増加が著しい柔整療養費について廣瀬理事長らが調べたところ、05年度の1億372万円から09年度には1億4,966万円と、5年で1.44倍になっていることが分かった。全国の医師国保で突出して多く、東京都医師国保が払う柔整療養費の2倍以上、全国の医師国保の柔整療養費総計の3分の1を占めるという額だ。

 そこで廣瀬理事長らは10年末から柔整問題についてのワーキンググループを発足。不正請求の疑義のある柔整師側にではなく、施術を受けた被保険者の方に、施術内容を照会する質問状の送付を始めた。対象は(1)施術日が1カ月15日以上と多い、(2)施術部位が3部位以上と多い、(3)1カ月の請求金額が2万5,000円を超える―例。今年8月までに柔整の適正利用に関するパンフレットを添えて560件の照会を行い、381件の回答を得た。

 質問状の内容は、療養費支給申請書から転記した負傷名と負傷時期、負傷の理由を確認するだけのものだったが、効果は大きかった。質問状の送付を始めてすぐ、対前年同月比での柔整請求総額と請求件数がいずれも15%近く減ったのだ。月別請求額を見ても、前年ピーク時から200万円近く、請求件数も200件近く減少した。

 この成果を受け、今年7月からは柔整師側に照会文書を送付し、2週間以内の返送を求めることも始めている。しかし、回答を見ると問題の根深さがあらためてうかがわれた、と廣瀬理事長。

 「不正請求が疑われたケースで、施術した柔整師と施術を受けた組合員(医師)が親子関係であるといった不自然な事例が見られた。今後は、肩凝りなどのマッサージで安易に柔整師にかかるべきではないことを周知して請求件数を減らすこと、同族間の施術施療を適正化することなどを目指したい」と述べた。

強化される指導監査体制、骨抜きにされるケースも

 大阪府医師国保で柔整療養費の支払いが多い背景には、大阪では柔整師数が2年で21.0%、施設数が14.4%と、全国の伸びを大幅に上回って急増していることがある。

 比例して膨れ上がる療養費の異常な伸びに、審査側も手をこまねいているわけではない。大阪府国民健康保険審査会で柔整療養費に関する審査委員を務める山本哲氏(日本臨床整形外科学会医療システム委員会副委員長)によると、大阪府国保での審査の結果、不正や不当な請求とされて返戻となった柔整療養費は09年度1億3,000万円(9,082件)、10年度は1億4,000万円(1万398件)となった。

 大阪府の指導監査委員会も、被保険者らからの情報提供を匿名でも受け付けるなど、柔整施術所への指導を強化している。10年度は全国合計の半分以上を占める82件の指導と29件の監査を行い、13カ所の受領委任払い停止を決定した。

 ただ、こうした審査会の法的拘束力は強くない。府として受領委任払いの中止をしても、監督権が市町村にある鍼灸(しんきゅう)に営業項目を切り替えて営業を続行されてしまうなど、骨抜きにされるケースがあるためだ。山本氏は「不正請求が疑われるケースへの照会を行うだけでも劇的な効果はあるが、限界があるということ。柔整療養費の適正化には、法改正を含めた審査体制の強化が必要だ」と述べた。

「大阪がきれいになれば全国がきれいになる」との気概を

 シンポジウムではこのほか、フロアの高知県医師国保の担当者から、柔整療養費の請求のあった被保険者全員に照会状を送ったところ、療養費の請求額は3割減ったとの報告も付け加えられた。

 同シンポジウムは、全国の健康保険組合で柔整問題に取り組む審査員の懇話会から発展し、整形外科医などを加えて行われるようになったもので、今年で3回目。当初は巨額の国民医療費が無駄に使われている実態や柔整師養成校の偏差値の低さ、患者の健康被害、対応の困難さといった悲鳴ばかりが目立ったが、3年目に入り、現状打破に向けた各地の動きが少しずつ成果を上げ始めているようにも見える。

 中でも、柔整師数も請求額も大きい大阪府で動きが出始めた意義は大きく、座長の相原忠彦氏(日本臨床整形外科学会医療システム委員会委員長)は、「大阪がきれいになれば全国がきれいになるという気概でもってぜひ進めてほしい」とコメント。

 さらに「医師国保は国民健康保険の模範となるべき国保。マッサージなどの誤った適応で柔整療養費を使うということは、まず医師国保から率先して改善しなければならない。大阪や高知で起こっていることをぜひ全国に広げてほしい」と述べた。

(編集部)

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