2011年11月18日 17:00 公開

抜歯後のトラブルを教えてください。

 親知らずの抜歯後によくあるトラブルを教えてください。(20代男性)

抜歯後に頬が腫れる、持続的に痛む、神経麻痺、骨の破折があります。

下顎の抜歯では、次のような症状が生じます。

下歯槽神経麻痺(オトガイ神経麻痺)

 下唇からその下の皮膚(オトガイ部)にしびれ(知覚麻痺)が生じます。この症状は、下あごの歯と下唇の半分の知覚を支配する下歯槽神経(かしそうしんけい。下顎神経の枝)が損傷されて生じます。この神経は歯根のすぐ下にあり、下あごの骨から出るとオトガイ神経と呼ばれます。原因としては、親知らずの歯根や抜歯時に破折した骨による損傷(図)や、抜歯時に歯を分割する器具による損傷、または抜歯時に行う麻酔(下あごの半分の歯と下唇の半分を麻酔します)による場合があります。抜歯時の約5%に生じます。

舌神経麻痺

 舌の半分または一部に、しびれや味覚異常が起こることもあります。これは舌の半分の知覚を支配する舌神経(ぜつしんけい。下顎神経の枝)が損傷されて生じます。舌神経は下あごの骨の内側で下顎神経より分岐し、歯肉の舌寄りの場所(舌側)を走行して舌に達します。 原因としては、抜歯時の切開による損傷、縫合時における神経の巻き込み、歯根や抜歯時に破折した骨による損傷、および下顎孔伝達麻酔(かがくこうでんたつますい)によって生じる場合があります。抜歯時の約1%に生じます。

歯の口腔底や翼突下顎隙への迷入

 下あごと舌の間の組織(口腔底)や下あごの内上方部(翼突下顎隙=よくとつかがくげき)に親知らず全体、または歯根の一部が入り込むこと(迷入)があります。原因は親知らずの下あごの骨の内側が薄いことが多いためで、骨が破折しやすいからです。

ドライソケット

 抜歯当日から3日後までの間に持続的な痛みが生じ、長期間(10~30日以上)持続する場合があります。痛みの程度はさまざまで、接触痛、自発痛および冷水痛などが生じます。抜歯した傷口(抜歯窩)から血液の塊(血餅)が脱落し、歯のある部分の骨(歯槽骨)が露出する状態になっています。 原因は歯を支える部分の骨における炎症による骨の硬化性の変化(硬化性歯槽骨炎)であると考えられます。

気腫

 下あごの抜歯に痛みもなく突然に頬や頸部が腫れることがあります。原因は親知らずの抜歯の傷から空気が入ったからです。押すとプチプチと音がしますので、診断は容易です。

 上顎の抜歯では、歯の上顎洞(じょうがくどう)内への迷入や口腔上顎洞瘻(こうくうじょうがくどうろう)が生ずることがあります。上あごの歯槽骨の上には骨の空洞(上顎洞)が存在します。その下底と歯根がきわめて近い場合があり、抜歯時に親知らず全体がこの中に迷入することや抜歯後に口腔と上顎洞が交通する状態(瘻孔=ろうこう)が生じます。

 上下のあごのいずれの抜歯でも、起こりうるのは抜歯後出血です。歯槽骨の骨折や止血や縫合の不備などの局所が原因の場合と、高血圧症、肝機能障害や出血性素因などの全身疾患による場合があります。さらに最近は、抗凝固薬や抗血小板薬を抜歯時に休薬しない影響による場合もみられます。

【図】親知らずの歯根や抜歯時に破折した骨による損傷

  1. 黒く太い線が下歯槽神経です。図では歯根と神経が重なっています。
  2. このまま抜歯すると歯根が神経を損傷します。
  3. そのため、歯を分割して歯冠を先に除去し、次いで歯根を除去します。しかし、この際にも損傷が生じ、麻痺が生じることもあります。

指導・監修

坂下 英明(さかした ひであき)

坂下 英明(さかした ひであき)
明海大学 歯学部歯学科病態診断治療学講座口腔顎顔面外科学教授