解剖!日本史上の絵画
2011年12月08日 15:00 公開

美女が骸骨に

九相詩絵巻(個人蔵)
九相詩絵巻(個人蔵)

 鎌倉時代に描かれた絵巻物に、「九相詩絵巻」というものがある。九相とは人が死んでから土にかえるまでの9つの屍体の変化を指している。

 本図においては、ある美しい娘が病を得て死亡し、その屍体が腐ってふくれあがり、皮膚が変色する。そこにうじがわき、はえがむらがり、強い臭気を放ち、野犬やからすがやってきて屍体をむさぼる。ついには肉も内臓もなくなり骨だけとなる。その骨もちりぢりになり、灰と化する。灰は風に吹かれていずこともなく消えてゆく。こうした9つの場面のうち、骨だけになった状態(仏法では骨連相という)をここに載せた。まことに人生とは無常なものである、とこれを描いた画家はいっているようである。

 この絵巻物を法医学の目からみるならば、人の屍の腐乱状態の変化を正確にとらえたものとしてまことに貴重な作品である。

 わが国では、江戸時代に『無冤録述』という検屍人のための法医学の専門書が発行された。水死、病死、凍死、毒死、絞殺死、餓死など31種もの死体鑑定法の書である。ここには、屍体の腐乱状態から死後推定時刻を知る法などが詳述されているが、これより先、鎌倉時代にすでに「九相詩絵巻」のような屍体の腐乱の進行が描かれていたのは驚異的といわざるを得ない。おそらく、この絵を描いた画家は京の町の路上に捨て置かれた屍体を精密に観察しながら写生したに違いない。

愛知県心身障害者コロニー こばと学園名誉総長・篠田達明

図:九相詩絵巻(個人蔵)

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