徳川九代将軍の脳性麻痺

2011年12月08日 15:00 公開

徳川九代将軍の脳性麻痺

徳川家重像
徳川家重像

 徳川幕府の公式記録『徳川実記』によると、九代将軍家重は「御多病にて、御言葉さわやかならざりし故、近侍の臣といえども聞き取り奉ること難し」とある。家重の不明瞭な発音を聞きわけることができたのは、北町奉行大岡越前守の家系に当たる大岡忠光ただひとりで、かれが将軍のいうことを家臣たちに通訳して伝えている。

 さらに家重の肖像画をみると、父吉宗に似ているものの、よく観察すれば、首を前方に突きだし、眉根を寄せ、唇をねじ曲げている。頬にも不随意運動をあらわすシワが寄っている。目には内斜視もある。肩が張り、手指の肢位もぎこちない。これらはアテトーゼタイプ(自分の意志に反する不随意運動の一種)の脳性麻痺にみられる特徴である。

 一般にアテトーゼタイプの脳性麻痺は上半身の症状が顕著で、重度になると口もきけず上肢もうまく動かせない。

 歴代将軍は必ず自筆の書画を残しているが、家重には一幅もそれがないのはアテトーゼのため手が不自由だったのであろう。家重を描いたのは御用絵師であり、本人を見栄えよく描くのがかれらのつとめであるから、実際の症状はこの肖像画にみられるよりさらに重度だったに違いない。また、芝増上寺にある将軍家の墓から発掘した家重の遺体調査によると、その上下の歯列の咬面にいちじるしい磨耗がみられた。これはアテトーゼによる歯ぎしりと、咬筋のつよい緊張で歯が擦り減ったためと思われる。

愛知県心身障害者コロニー こばと学園名誉総長・篠田達明

図:徳川家重像(徳川恒孝氏蔵)

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