解剖!日本史上の絵画
2011年12月08日 15:00 公開

先端巨大症の熊本武士

先端巨大症の熊本武士
先端巨大症の熊本武士

 渡辺崋山は幕末にあらわれた天才的な文人画家である。三河・田原藩の家老として藩政に腕をふるった。蘭学を通じて的確な対外認識をもち、『西洋事情』『慎機論』をあらわして幕府の鎖国政策を批判した。そのため、高野長英らとともに捕らえられ、「蛮社の獄」(天保10年、1839年)の悲劇を招いた。崋山の遺した数々の絵画は、いずれも国手の名にふさわしい名作ぞろいだが、中でも人物画に優れ、「鷹見泉石像」は国宝に指定され東京国立博物館におさめられている。

 ここにかかげた人物像は崋山が描いた侍のひとりであり、巨人症といえるほど背丈が高い。それだけでなく、手、足、あごなどの末端も異常に大きく、これはあきらかに脳下垂体前葉の機能亢進による先端巨大症(末端肥大症)である。その異様な姿に目をみはった崋山が心を動かされ、絵筆をとったのであろう。

 ちなみに、この侍は勤めた田原藩士ではなく、熊本の藩士といわれている。江戸へ参勤交代する途上たまたま田原藩に立ち寄り、崋山に写生されたのであろう。崋山の画風は写実主義を堅持したので、この作品も先端巨大症の特徴をとらえてあますところがなく、医学的にも貴重な一幅といえよう。

 なお崋山は自宅に蟄居中、藩主に迷惑がおよぶのをおそれて自殺した。自殺するまえ、「邯鄲の夢」の故事を題材に「黄梁一炊図」を描き、これが絶筆となった。

(愛知県心身障害者コロニー こばと学園名誉総長・篠田達明)

図:渡辺崋山の描いた先端巨大症(クリークランド美術館蔵)

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