解剖!日本史上の絵画
2011年12月08日 15:00 公開

骨粗鬆症とT字杖

 貞観8年(866年)、清和天皇の世に、平安京の応天門が炎上した。ときの大納言伴善男が左大臣源信を陥れるために放火したとされる事件である。

 それから300年後の安元3年、京の町に大火が起こり、火は大内裏まで燃え移ったが、これを目にした後白河法皇は絵師の常磐源二光長に命じて一巻の絵巻を描かせた。図は、その「伴大納言絵巻」の一場面で、群集が伴大納言の秘密を語る舎人のことばに耳を傾けているところである。群集のひとりに杖をついた老人がいるが、その曲がった腰と杖に注目していただきたい。老人はおそらく骨粗鬆症によって背中や腰の変形をきたしたのであろう。

 骨粗鬆症は年をとればだれにでも起こる生理的変化であり、病気というわけではない。しかし、うっかり転べば、手足の骨を折り足腰が立たなくなる。すると、寝たきりになって寿命が縮むことを昔の人は心得ていた。そこで、多くの老人は「転ばぬ先の杖」を合いことばに、よく工夫された杖を手にしていた。

 ここにみられる杖は把持する部位がTの字形をしており、現代のT字杖に似ている。杖の先も木の枝などを利用したのか、二股にわかれ安定性がよい。さながら、現代のtri-pot(三点支持杖)あるいはquad-cane(四点支持杖)を思わせる。このような杖は「飢餓草子」(12世紀)や「法然上人絵伝」(14世紀)にも描かれており、骨粗鬆症などという病名を知らぬ当時の人々の方がかえって十分な予防をしていたのは興味深い。

(愛知県心身障害者コロニー こばと学園名誉総長・篠田達明)

図:伴大納言絵巻(出光美術館蔵)

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