2011年12月21日 13:49 公開

思春期の「リスカ」や「アムカ」は慢性化するのか

東北大学大学院予防精神医学寄附講座 松本 和紀

<編集部から>

 自傷行為の増加は社会問題になっている一方、「リスカ」(リストカット=手首を切ること)や「アムカ」(アームカット=腕を傷つけること)などの呼称で、一部の若者の間では文化になっているという面もあります。このリスカやアムカは、思春期のみで見られる衝動的な行為なのか、それとも成人になっても続いていくのか...。英医学誌「Lancet」に報告された研究について、精神科専門医である東北大学大学院の松本和紀・准教授に解説してもらいました。

研究の背景:若者の10%以上に認められる自傷行為、その経過は?

 自傷行為とは、自らを意図的に傷つける行為で、若者のおよそ10~10数%に認められる、と報告されている。刃物などで自らの身体を傷つけたり、向精神薬やその他の薬を大量に服用したりするなどの方法が取られることがしばしばで、15~24歳の女性に多い。前者の一部は、「リスカ」や「アムカ」などの言葉で、若者のサブカルチャーのような形で扱われることもあるが、その背景には精神疾患が潜んでいる場合もあり、自殺の予測因子の1つとされている。

 自傷行為は、先進諸国に共通の健康問題の1つであり、精神科だけでなく、小児科、救急医療、教育現場などでしばしば認められる事象だ。若者の自傷行為についての横断的研究(複数の対象群を比較調査する研究方法)の報告は増えてきているが、一般住民を対象にした自傷行為の縦断的研究(単一の対象群を長期間、継続的に調査する研究方法)は乏しく、自傷行為を行った人がその後どのような経過をたどるかは明らかでない。

 今回紹介する研究は、オーストラリアで一般の若者の自傷行為について約15年間縦断的に調べた研究である(「Lancet」2011年11月16日電子版)。

研究のポイント:思春期の自傷行為の多くは自然に治るが、若年成人期から始まる一群も

 1992~08年にオーストラリア・ビクトリア州において若者の集団研究が実施された。第1回の調査はランダムに選ばれた45校の生徒を対象に行われ、以後、調査は9回実施された。

 1~6回目の思春期には半年ごとに調査が行われ、1回目の参加者の平均14.9歳、6回目は平均17.4歳だった。7~9回目の若年成人期では、7回目が平均20.7歳、8回目が24.1歳、9回目が平均29.1歳で実施された。1~6回目の調査は、コンピューターの自己記入調査と欠席者への電話調査、7~9回目の調査はコンピューターを用いた電話調査で行われた。

 1,943人が、思春期の6回調査のうち1回には参加し、9回目の調査では1,395人が調査を終えることができた。

 研究参加者の約10%に自傷行為の経験が認められた。自傷行為が思春期のみで認められて若年成人期には認められなくなっていた者が7.4%、思春期から若年成人期に持続して認められた者が0.8%、若年成人期になって始まった者が1.6%だった。

 自傷行為をする者の割合は思春期前半で比較的高いが、思春期後半に大きく減少し、その後、若年成人期の間に徐々に減少することが示された。

 一方で、若年成人期に自傷行為が認められた人の約3分の2は思春期には自傷行為がなく、思春期と若年成人期の自傷行為が必ずしも連続的ではないことが示された。若年成人期の自傷行為を予測する要素が思春期にあるかどうかを調べたところ、思春期の時期に抑うつや不安を示す者ほど、若年成人期になって自傷行為を示すことが分かった。

 思春期の自傷行為は、うつ、不安、反社会的行動、危険なアルコール摂取、大麻使用、喫煙と関連していた。過去の報告同様に、女性の方が男性に多く認められた。女性では、思春期の自傷行為は若年成人期の自傷行為と統計学的有意に関連していた。特に、思春期の2回以上の調査で自傷行為がある場合は、リスクが20倍と高かった。

わたしの考察:自傷行為は心の苦痛のサイン

 今回の研究結果は、自傷行為をする思春期の子供のほとんどが、年齢を重ねるとともに自傷行為をやめ、10人のうち9人は若年成人期になると自傷行為をやめることを示している。この問題に関心を寄せる保護者、学校関係者、精神保健関係者にとっては、ひとまず安心させられる結果と言えるだろう。

 一方で、思春期に自傷行為の経験がない人が若年成人期になって自傷行為を始めたり、また、一部、特に自傷行為を繰り返す女性において、思春期からの問題が継続する一群がいたりすることにも注目すべきだ。自傷行為は、これを繰り返すうちに重症化する傾向があることが知られており(「Psychological Medicine」2005; 35: 983-993)、これが将来の自殺と関連するというよく知られた事実がある(「British Journal Psychiatry」2002; 181: 193-199)。特に、思春期の抑うつや不安が、若年成人期の自傷行為と関連していたという今回の結果からは、思春期の抑うつや不安を標的にした介入が重要な役割を持つ可能性が示唆される。

 自傷行為は、思春期から若年成人期にかけての生物学的変化と関連する情緒的な不安定さと関連するという考え方がある(「Annals of the New York Academy of Sciences」2004; 1021: 1-22)。今回の結果でも自傷行為と不安や抑うつとの関連が示されているが、自傷行為を行う若者の多くは、心理的な苦痛を和らげる目的で行為に及んでいる。

 自傷行為の感情制御モデルは実証的に支持されており、これによると、ほとんどの自傷行為に先行して否定的な感情が現れる。自傷行為は、それを和らげ、その後には安堵の感覚が現れるという(「Clinical Psychology Review」2007; 27: 226-239)。

 患者に接する医師や関係者は、自傷行為に至った若者やその家族に対して否定的な態度を取るのではなく、自傷行為の背景に精神科的な問題や心理的苦痛が存在することに目を向けることが大切。多くが良好な経過を取ることを説明するとともに、問題が持続する場合には、専門家への紹介も含めて必要な対策を検討すべきだ。

松本 和紀(まつもと かずのり)

 1992年、東北大学医学部を卒業し、同大学精神医学教室に入局。同大学病院精神科、二本松会山形病院での勤務を経て、1996年から同大学病院に勤務。2002~04年、ロンドン大学精神医学研究所(IOP)に留学。2011年10月から東北大学大学院医学系研究科予防精神医学寄附講座准教授。研究テーマは予防精神医学、精神病の早期介入など。

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