2012年04月09日 10:36 公開

糖尿病治療薬、がんに有用の可能性

米国から報告相次ぐ

 米国がん研究協会(AACR)は3月末、糖尿病治療薬「メトホルミン」(商品名「メトグルコ」など)のさまざまながんへの有用性を示す5つの研究成果のリリースを、同時に発表した。糖尿病とがんに密接な関連があることはよく知られており、メトホルミンを使うことで糖尿病患者のがん発症が抑制されるという研究結果は、主に大腸がんを中心に報告されてきた(関連記事)。しかし、今回発表された5件の研究は動物実験などが含まれているものの、膵臓がん、前立腺がん、肝臓がん、口腔(こうくう)がん、メラノーマ(悪性黒色腫)と、いずれも種類の異なるがんに関するものだ。

糖尿病合併膵臓がん患者の2年生存率が倍増

 膵臓がんは治療後の経過があまり良くないがんの1つで、糖尿病患者の発症率は糖尿病でない人に比べ高いとされる。

 米MDアンダーソンがんセンターのDonghui Li氏らは、302人の糖尿病合併膵臓がん患者を対象とした研究を実施した。その結果、メトホルミンを使用していない患者(185人)の検討開始時点から2年間の生存率が15.4%だったのに対し、メトホルミンを使用している患者(117人)では30.1%と、約2倍高かったという。

 同氏らは、メトホルミン使用により32%の死亡リスク低下が得られたと評価。この低下効果は、すでに転移巣のある場合を除くすべての病期で見られた。今後、膵臓がん治療の補助療法としての検討を始める意向を示している。

前立腺がん患者への安全性を確認

 カナダ・プリンセスマーガレット病院のAnthony M. Joshua氏らは、前立腺がん患者を対象としたメトホルミンの有用性に関する研究(臨床第Ⅱ相試験)の結果を報告した。

 同氏らは、前立腺がん患者22人に対し、前立腺全摘出手術前にメトホルミン500ミリグラムが1日3回投与。投与開始から41日(中央値)時点で重篤な有害事象(副作用)は見られなかったほか、空腹時血糖やBMI(肥満指数)などの改善が認められた。全摘出手術後も、メトホルミンに関連した有害事象は確認されなかったという。

 同氏らは、今回得られた結果を予備的なものとしつつ、メトホルミンによる糖代謝および肥満の改善効果が、一部の前立腺がんで腫瘍細胞の増殖を抑えることにつながる可能性を示唆。今後も糖尿病もしくは糖尿病の前段階の合併など、メトホルミンの効果が大きくなる前立腺がん患者を明らかにしていきたいとしている。

肝臓がんに保護的作用の可能性

 米メリーランド医科大学のGeoffrey Girnun氏らは、肝臓がんを誘発したマウスを使った実験でメトホルミンが肝臓がんに保護的な作用をもたらす可能性を報告した。

 メトホルミン投与マウスでは投与していないマウスに比べ、高い腫瘍増殖抑制作用が確認されたという。同氏らは、メトホルミンの肝臓がんに対する作用を直接的に評価したのはこれが初めてではないかとしている。

 同氏らの研究グループはほかにも、肝臓がん発症予防の仕組みとして、肝臓の特定の部分での脂質合成を、メトホルミンが阻害することが関連している可能性を報告。糖尿病患者、肥満者、肝炎患者、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者は、いずれも肝臓がんになる危険性が高く、いずれも肝臓での脂質合成が上昇しているという。同氏らは現在、人間を対象とした研究の実施を検討中。

口腔がんへの進展が最大90%抑制

 米国立歯科・脳顔面頭蓋研究所のJ. Silvio Gutkind氏らは、マウスを使った実験でメトホルミン投与によって口の中の腫瘍が縮小したとの結果を報告した。

 それによると、発がん物質誘発性の口腔がんを発症させたマウスへのメトホルミン投与で、腫瘍サイズの縮小、扁平上皮がんへの進展が70~90%抑制されるなどの結果が得られたという。

 口腔がんの進行には「mTORC1」と呼ばれる分子が重要な役割を果たしているが、メトホルミンにはmTORC1への強い活性が確認されている。同氏らは、今回の実験結果でメトホルミンの抗腫瘍効果が強く裏付けられたと考察している。

 また同氏らは、口腔がんだけでなく、さまざまな頭頸(けい)部がんへの進展予防にも関連しているとの考えを示している。

メラノーマには無効か

 悪性度の高いがんの1つとして知られるメラノーマに対する検討も始まっている。英パターソンがん研究所のRichard Marais氏らは、BRAFという遺伝子の特定の個所が変異したBRAFV600E変異陽性メラノーマ患者から採取し、培養したがん細胞にメトホルミンを加える実験を行った。

 しかし、メトホルミンによるメラノーマ細胞の増殖を抑える効果はほとんど見られなかった。この原因は、BRAFV600Eが、メトホルミンの効力を低下させることに関連している「RSK」と呼ばれるタンパク質を活性化するためと考えられるという。

 では、メトホルミンはメラノーマに全く歯が立たないのか。Marais氏らはさらに、マウスで新たな実験を行ったところ、BRAFV600E変異陽性メラノーマ細胞を増殖させたマウスにメトホルミンを投与すると、BRAFV600E変異陽性細胞からの血管内皮細胞増殖因子(VEGF)-Aの産生が増加することを突き止めた。

 これを受け、同氏らはすぐに同じモデルマウスを使って、メトホルミンとVEGF-Aの増加を抑える作用を持つ2種類の抗がん薬と併用する実験を行った。その結果、メトホルミンのみを投与した群では腫瘍が2倍に増大したのに対し、axitinib(日本未承認の抗がん薬)を併用した群では腫瘍増大が45%に抑制された。もう1つの抗がん薬(ベバシズマブ)を投与した場合、ベバシズマブのみ投与した群では腫瘍増大が34%抑制されたが、メトホルミンを併用した場合、さらなる抑制が認められた(64%)。

 同氏らは今後、患者を対象とした臨床試験も始めたいとし、「メトホルミンと抗がん薬の併用療法が、治療後の経過があまり良くないメラノーマに対する新たな選択肢となれば」と述べている。

(編集部)

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