2012年04月18日 13:51 公開

【寄稿】筋トレと有酸素運動、どちらが先が効果的?

北里研究所病院糖尿病センター 山田 悟

<編集部から>

 ダイエットから生活習慣病の治療まで、健康を維持するためには運動が一番。でも、基礎代謝を上げる筋肉トレーニング(筋トレ)とエネルギーを燃焼する有酸素運動のどちらから先にやった方が効果的か、ご存じでしょうか。この順番は低血糖などの血糖コントロールに影響するため、特に糖尿病患者にとって重要になります。1型糖尿病患者を対象に行われたカナダの研究について、北里研究所病院糖尿病センターの山田悟センター長に解説してもらいました。

研究の背景:筋トレ先行を支持する日本の研究も

 糖尿病治療において、食事療法と運動療法が双璧をなす大切な治療法であることは間違いない。その運動療法においては、有酸素運動とレジスタンス運動(筋トレ)が相乗的に効果を発揮することが知られていたが(「Annals of Internal Medicine」2007; 147: 357-369)、先に有酸素運動をする場合と、先に筋トレをする場合とで効果に差異があるかどうかは十分には知られていなかった。

 一方、東京大学大学院(総合文化研究科)の石井直方教授らのこれまでの研究では、有酸素運動の前に筋トレをしておくことで、筋トレを行わない場合よりも有酸素運動中の脂肪燃焼が増加することが知られていたので(「Medicine & Science in Sports & Exercise」2007; 39: 308-315)、先に筋トレをしておいた方が、先に有酸素運動をするよりも(脂肪燃焼が生じやすく、糖質燃焼が生じにくいので)痩せやすく、運動中の低血糖を生じにくくさせる可能性が考えられていた。

 今回、まさに有酸素運動と筋トレの順番を変えた場合の、運動中およびその後の血糖値の変化を検証した研究が、米医学誌「Diabetes Care」(2012; 35: 669-675)に報告され、やはり先に筋トレを実施しておいた方が低血糖予防に良いことが示されたのでご紹介したい。

研究のポイント1:12人の1型糖尿病患者を対象に検討

 この研究はカナダ・オタワ大学の研究者が実施したもので、これまでに少なくとも6カ月以上有酸素運動と筋トレを実施していた12人の1型糖尿病患者が登録された。被検者はトレッドミル(ランニングマシン)で最高酸素摂取量を測定されたほか、筋力は8-RM(8回の反復が限界となる重さ)を指標にチェストプレス(大胸筋)、レッグプレス(大腿=たい=四頭筋、二頭筋、大臀=でん=筋)、ロウイング(広背筋、菱形筋、僧帽筋)、レッグカール(大腿二頭筋)、ショルダープレス(三角筋)、ラットプルダウン(広背筋)の6種目で測定された。

 試験日の午後5時から運動セッションを開始。運動セッションは、有酸素運動先行(有酸素運動を先にして筋トレを後からする)の場合と、筋トレ先行(筋トレを先にして有酸素運動を後からする)の場合の2パターンを作っておき、 5日以上を空けて2回の運動セッション日を設けた。有酸素運動と筋トレのメニューと強度は以下の通り。

  • 有酸素運動:最高酸素摂取量の6割の強度(トレッドミル負荷)で45分間走る
  • 筋トレ:8-RMの負荷で8回の反復動作を3セットずつ6種目、計45分間実施

 血糖値の測定は、運動中は静脈内に留置したカテーテル(管)から5~15分間隔で採血を行い、運動後については運動セッションの24時間前に皮下に留置した血糖値記録機器(CGM)のセンサーで、皮下間質液(皮下組織を取り巻く液体)中の値を記録した。

研究のポイント2:筋トレ先行で血糖値が安定しやすい

 運動中の血糖値については、運動の順番にかかわらず、筋トレ中にはほとんど低下はなく、有酸素運動で低下することが分かった。一方で、有酸素運動先行(破線)に比べ、筋トレ先行(実線)の方が、有酸素運動中の低下が軽度だった(図1)。また、運動終了後の回復期60分間における血糖値は、有酸素運動先行の方が高く推移していた。

exercise01.gif

 運動終了後の皮下間質液中の血糖値の変動をCGMで見ると、有酸素運動先行の方が、運動終了後4~5時間(240~300分)までは高く、運動終了後9時間(540分)までは低く、その後、明け方にかけて再び高くなっていることが示されており、夜間にアップダウンが認められた。これに対して筋トレ先行では、徐々に血糖値が低下していくという一貫した傾向を示すのみだった(図2)。

exercise02.gif

私の考察:運動の順番がかくも大事だったとは!

 図1からは、第一運動期でも第二運動期でも、有酸素運動を実施すると血糖低下作用がもたらされることが分かる。しかし、有酸素運動先行の方が、筋トレ先行で有酸素運動を後で実施したときよりも血糖の下降度が大きい。実施している有酸素運動のメニューや強度は同じであり、使用しているエネルギー量は同じはずだ。よって、血糖値の下降度の違いは、筋トレを先行させたことで、エネルギー基質(エネルギー源)が糖質から脂質にシフトしていることに由来すると想像される。

 また、回復期の血糖値の変動に注目すると、筋トレ先行の場合、回復期の血糖値の上昇はほとんど生じていない。一方、有酸素運動先行の場合、回復期に一貫して血糖値が上昇している。筋トレ先行の場合には筋トレ中に脂肪組織から動員された遊離脂肪酸が有酸素運動で消費されるのに対し、有酸素運動先行の場合には筋トレ後の遊離脂肪酸の動員が末梢での糖の消費と拮抗してしまうことを、これらのデータが示唆している。

 さらに図2では、有酸素運動先行の場合、遊離脂肪酸やカテコールアミンの影響がなくなってくると血液中のグルコース(糖)を使って筋肉内のグリコーゲン(多糖)貯蔵を行うためなのか、徐々に血糖値は低下し、夜間(午前1時頃)には低血糖気味にまでなっている。その後は、インスリン拮抗ホルモンが上昇するのか、継続的に血糖値が上昇し、早朝(午前6時頃)には血糖値が筋トレ先行の場合よりも高くなっている。これは"暁現象"(翌朝の高血糖)とも合致する変動かもしれない。

 このように、本研究の結果は、筋トレによりエネルギー基質がグルコースから遊離脂肪酸優位にシフトするというエネルギー代謝の変化を、有酸素運動の前に起こすか、後に起こすかで、血糖コントロールにかなり影響することを示している。石井直方教授らは、以前から「痩せたいなら筋トレを先にやりなさい!」という指導をされていたが、これからは「低血糖予防のためにも(暁現象を軽くするためにも)、筋トレを先にやりなさい!」と言ってもよいのではないだろうか。これまでのわたしは「いつやってもよい。何をやってもよい。やればやるほどよい」と言ってきたが、うまい調和を考えていきたいと思う。

山田 悟(やまだ さとる)

1994年、慶應義塾大学医学部を卒業し、同大学内科学教室に入局。東京都済生会中央病院などの勤務を経て、2002年から北里研究所病院で勤務。現在、同院糖尿病センター長。診療に従事する傍ら、2型糖尿病についての臨床研究や1型糖尿病の動物実験を進める。日本糖尿病学会の糖尿病専門医および指導医。

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