2012年04月20日 13:51 公開

こんなに違う!「運転免許と病気」日本と海外の情報提供

 最近、てんかんや糖尿病治療中の人が起こした重大な自動車事故が相次いで報道されている。しかし、自動車運転が場合により制限される病気は、この2つにとどまらない。2002年6月から施行されている改正道路交通法では、てんかんを含む9つの病名が「免許の拒否、保留、取消し又は停止の対象」となり得る要件に挙げられている。法改正の経緯には、それまで一律に制限されていた免許取得の権利を緩和する背景があった。現在は、本人による自己申告を前提に、公安委員会あるいは必要に応じて医師の個別判断に基づく形で、法律の運用が行われている。これで運転免許を取得できるようになった人がいる半面、自己申告が行われないことによる問題も残されている。一方、海外でも、運転免許保持に影響する病気の定義は存在するが、その在り方は大きく異なるようだ。

がん、摂食障害や感染症までを網羅する...英国

 英運輸省の一部門、Driver and Vehicle Licensing Agency(DVLA)では、一般向けに「運転に影響する健康状態(Health conditions that could affect your driving)」に関する情報を提供。アルファベット順にA~Wまで日本の法令や政令には表記のない、外科手術を必要とする病気やがん、摂食障害や感染症など数え切れないほどの病名が並んでいる。

 もちろん、ここに挙げられているすべてが免許の保持に制限があるわけではなく、公式サイトには当局への届け出の要・不要に関する情報がダウンロード可能な届け出用紙とともに提供されている。

冊子で患者保護の在り方を解説...豪・ニュージーランド

 オーストラリアとニュージーランドの交通・運輸当局や関連団体が加盟するAustroadsは今年3月、運転に関する健康条件の規定「Assessing Fitness to Drive」の見直しを9年ぶりに実施したばかり。23あった項目から10項目に簡易化を行った。全176ページの冊子で、運転に必要とされる全身各所の機能から病気による障害まで、比較的軽微な病気や妊娠を含む情報が網羅されている。

 日本では、患者個人の自己申告がなければ、たとえ医師が「運転能力なし」と診断したとしても、運転可能性が疑われた場合の規制当局への通報義務はない。また、医師として患者本人やその家族への説得は行うものの、患者の個人情報保護などの観点から、実際にその情報を当局に告知するかどうかは微妙な問題との声も聞かれる。

 オーストラリアとニュージーランドでは、あくまで運用は州や地域により異なるとしながらも、運転者(あるいは患者)、免許規制当局、医療関係者の関係を明確に定義。医療関係者と当局の関係では、直接連絡を取り合うことはないが、患者が度重なる運転中止のアドバイスに従わず、交通安全を脅かす可能性が高いと判断した場合には、直接の告知を行ってよいとされている。

10ページの法律条文、免許相談センターの電話番号...日本

 日本では、運転免許の保持あるいは自動車運転に影響する健康状態について、英国などのように網羅的かつ十分な情報提供が行われているとはいえないのが現状のようだ。インターネットという限られた手段、かつ限られた時間ではあるが、公的な情報という条件で検索したところ、以下のものにたどり着く。

  • 「道路交通法」およびその政令の条文(病気に直接関連する記述は10ページ足らず)
  • 各地域の警察署の公式サイトにある免許相談センターの情報(電話番号のみ、あるいは直接対面での問い合わせがほとんど)
  • 「ペースメーカ、ICD、CRTを受けた患者の社会復帰・就学・就労に関するガイドライン」(日本循環器学会・医療関係者向け、直接関連する記述は約2ページ)
  • 「道路交通法改正にともなう運転適性の判定について」(日本てんかん学会・医療関係者向け、4ページ)

 すでにお気付きの方もいるかもしれないが、上に挙げた英国などの運転と健康状態に関する情報は、すべて交通・運輸当局が医療の専門家と提携して、提供している。公式サイトでは、政府関連の一般情報あるいは道路、自動車の情報と同列に扱われているようだ。

 日本では上記の警察、一部医学団体による情報提供が見られるのみ。運輸・交通に関連する省庁の公式サイトを見る限り、自動車の「健康」ともいえる整備などの情報はあるが、運転者の健康状態に触れたものは、ざっと調べた限り行き着くことができなかった。

 例えば、運転に影響する可能性がありそうな病気にかかっていて、運転免許が自分の生活や仕事に影響する可能性が高い場合、いきなり免許相談センターに電話、あるいは直接相談する心理的ハードルはかなり高いのではないだろうか。

 また、医師に相談することはより一般的と思われるが、数人の専門領域の違う医師に病気と自動車運転について質問をしてみたところ、共通していたのは「患者から相談されればアドバイスする」というもの。万が一患者が相談しづらい状況にあった場合、運転に関してほかに十分な情報を得る場があるのか、疑問が残る。

 日本でも、飲酒運転の厳罰化や道路整備などが功を奏し、交通事故死は低下の一途をたどっている。一方、交通安全の規制と同時に、「運転には全身の多様な機能を必要とし、病気とまで行かなくともその運転に影響する因子は多々ある」との情報発信を広く行っている国もある。

 「自分(家族、知人)は運転してよいのか」「この人は運転可と判断してよいのか」―困っている、あるいは迷っている人々がどういう情報を必要とし、その情報にきちんとたどり着くことができ、さらに社会全体の安心、安全につながっているのか。日々の報道だけでは見えてこない「健康と自動車運転」の在り方の違いは大きいと考えさせられる。

(編集部)

  • 9つの病名...統合失調症、てんかん、再発性の失神、無自覚性の低血糖症、そううつ病、重度の眠気の症状を呈する睡眠障害、その他精神障害(急性一過性精神病性障害、持続性妄想性障害等)、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、一過性脳虚血発作等)、認知症 <表記順、用字用語は政令原文ママ>

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