不妊のおはなし
2012年06月30日 12:37 公開

漢方で取り組む不妊治療

女性の場合は月経を整えることが基本

 近年、人気を集めている漢方は、不妊の症状に対してはどのような治療が可能なのでしょうか。表参道福澤クリニック(東京都)の福澤素子副院長は「女性の不調の場合は、まず月経を整えることが治療の基本です」と説明します。漢方治療の基本的な考え方や、不妊に対する治療方法などについて聞きました。

体全体の機能を診るのが漢方治療

 漢方治療では、一人一人の「証」と呼ばれる漢方医学的な診断に基づいて薬が処方されます。証を決める物差しとして、体力の有無を表す「虚実」や、新陳代謝の活発さを示す「陰陽」があり、漢方医学的な病態を表す概念の「気・血・水」に基づいて、個々の症状を診断します。

 気・血・水の「気」は生命エネルギーや精神状態、「血」は血液、「水」は汗や尿、唾液、リンパ液など血液以外の全ての体液を意味しており、これらが過不足なく、滞りなく巡っているのが健康な状態と考えられています。

 診察は、問診(疲れやすさ、冷えやのぼせ、大小便、月経、睡眠、精神状態、食生活などについて聞く)、望診(顔色や舌の色・苔、皮膚の状態などを見る)、聞診(心下振水音=みぞおち辺りを軽くたたいたときの水音=などを聴く)、切診(脈と腹部の診察)を行って全身の機能を総合的に診ます。

月経不調の改善が不妊治療につながる

 漢方で不妊治療に取り組みたい場合、福澤副院長は「前もって西洋医学的な検査をした方がよいでしょう」と勧めています。例えば卵管閉塞、子宮筋腫や子宮内膜症といった、妊娠の妨げとなっている症状や病気に手術などが必要なケースがあり、まずは原因を見極めることが求められるためです。

 漢方治療では、女性を診る場合は「まず月経を整える」ことが治療の前提となります。月経不順や月経困難症などの症状は、血液の巡りが悪くなる瘀血(おけつ)や血液が不足する血虚といった"血"の異常が主な原因と捉えられています。こうした血流や冷えを改善して月経を整えていくことが、不妊の治療につながるという考え方です。

 月経困難症、月経前症候群(PMS)など月経に伴う症状によく使われる薬としては、瘀血を改善する作用のある当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)が代表的。また、皮膚や唇の乾燥を伴う場合には温経湯(うんけいとう)、体調と精神面の両方からアプローチする加味逍遙散(かみしょうようさん)などもよく用いられます。強い月経痛には、痛みの元となる物質のプロスタグランジンを抑える働きがある芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)の月経前からの併用も効果的といいます。また、当帰芍薬散は流産防止にも用いられるようです。

 福澤副院長は「不妊外来に通うこと自体がストレスになっているなど、精神的な重圧を感じている方も多く見受けられます。漢方の治療では婦人科系だけでなく、胃腸虚弱など体の中の弱いところや精神面なども総合的に診て整えるので、全身の状態が良くなって妊娠しやすくなる場合もあります」と、その特質を説明しています。

 また、漢方治療は男性不妊にも用いられています。処方される主な薬には、精神面を整えることで勃起障害(ED)や性欲低下に作用する柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)や桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしこかりゅうこつぼれいとう)、泌尿生殖器系や下半身の衰えに働き掛ける八味地黄丸(はちみじおうがん)などがあります。胃腸を整えて気を増し、免疫力をアップする補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は精子の数や運動率を高めるというデータも出ているようです。

年単位で気長に治療

 効果が現れるまでの時間は個人差があるが、一般的には年単位で考え、数年かけて気長に治療していくつもりで続けるとよいようです。大抵の場合、飲み始めてから1カ月程度で冷えが良くなる、疲れにくくなるといった体調の変化が現れるので、少なくとも2週間ほど飲んで副作用がなければ続けていきます。

 副作用としては、多くの漢方薬に含まれている甘草という生薬が、服用が重なるとむくみ、高血圧、低カリウム血症などが起こることがまれにあります。また、動物実験で子宮収縮作用が認められている生薬もあり、漢方薬も妊娠中の服用は必要最小限にするほうがよいようです。服用中は、医療機関で副作用のチェックも受けながら続けていくことが望ましいでしょう。

 漢方薬には、せんじ薬を乾燥して作られる医療用漢方エキス製剤(細粒、顆粒=かりゅう=、錠剤、カプセルなど)と、生薬を調剤するせんじ薬があり、どちらも保険適用されています。

 福澤副院長は「不妊外来に長年通った後に漢方を始める人が多いのですが、西洋医学的な治療との併用は可能ですし、早めに始めれば妊娠の確率はさらに上がると思います。また、不妊に悩んでいる人だけでなく、将来妊娠を望んでいる人も、冷えの改善などは時間がかかるので、月経のトラブルがあったら早めに改善しておいた方がよいでしょう」と、妊娠の意思がある人は前もってコンディションを整えておくことを勧めています。

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