2012年08月09日 13:17 公開

アスペ患者の受け皿に、専門外来とデイケアの効果は?

昭和大学附属烏山病院・加藤進昌氏に聞く

 近年、アスペルガー症候群などに代表される発達障害の成人患者が増加しているという。しかし、発達障害は生まれつきのものとされ、成人の発達障害患者が精神科で受け入れられないケースが多い。そのため、昭和大学附属烏山病院(東京都)では2008年、成人の発達障害専門外来を開設した。同時に、アスペルガー症候群患者を対象としたデイケアプログラムも開始し、増加する発達障害患者の受け皿を一手に引き受けている。同病院の加藤進昌病院長(昭和大学大学院保健医療学研究科教授)に、成人を対象とした発達障害外来およびアスペルガー症候群患者を対象としたデイケアプログラムを中心に、成人の発達障害患者の特徴などを聞いた。

初診患者は4年足らずで2,000人超え

――成人対象の発達障害専門外来を開設した背景は?

 かつて私が勤務していた東京大学病院精神神経科では、自閉症を脳機能障害と捉え、1965年頃から「小児部」として療育に取り組んできました。私自身も精神科医として、東大病院で子供の自閉症患者に接していました。

 1998年のある日、アスペルガー症候群と診断された子供を持つ母親が、自らもアスペルガー症候群ではないか、と訴えて受診に来たんです。統合失調症を治療していたその母親は、一見して奇異なところは認められませんでした。しかし、彼女が私に見せてくれた、自分の感じていることや悩みを細かく記した大量のメモは、アスペルガー症候群の特徴と合致していました。その頃、彼女と同様の成人患者が受診するケースが増えており、アスペルガー症候群と診断できる一群があることも分かってきていました。

 ところが、成人の発達障害患者は、児童専門の精神科はもちろん、成人専門の精神科からも受け入れられない状態。成人専門の精神科では、生まれつきの障害である発達障害は治療できないと断られてしまうからです。また、アスペルガー障害は一般的な自閉症とは違い、社会人として普通に暮らし、場合によっては親として生活している人もいます。その人たちを概念上で自閉症とのつながりのあるアスペルガー症候群と捉えるのは、児童専門の精神科医にとっては受け入れ難かったようです。

 そこで、2007年に昭和大学附属烏山病院に勤務することになった私は、発達障害の中でも代表的なアスペルガー症候群を中心に、成人の発達障害専門外来の開設に着手しました。翌年6月、成人の発達障害専門外来の設置を当院の公式サイトで告知したところ、予想以上の反響があり、2012年3月現在で初診患者の累計は2,000人を超えるまでになりました。

社会処世術学ぶデイケア

――アスペルガー症候群の特徴は?

 自閉症と同じ生まれつきの脳機能障害です。一般的な自閉症であれば、知的障害や奇異な言動が幼少期に認められるため、早期の診断や治療が行われる場合が多いのですが、アスペルガー症候群は知能指数(IQ)が高く、小中学校などでは規則から大きくはみ出さない限り、周囲の大人たちに気付かれないケースが多く、見過ごされてしまいがちです。精神科医療でも、表面化したのは1981年になってから。注目を浴びるようになったのは2000年頃からなのです。

 アスペルガー症候群の特徴として、自分の興味があることを相手の反応に無関係に話し続けるなど、他者の気持ちが理解できないといった社会性の障害や、特定のことに対して深い知識を持つがそれ以外には興味がないなどのこだわりの強さが挙げられます。言語性のIQが高く、男性に多いのも特徴です。

 医師が診断する上では、生まれたときからずっとアスペルガー症候群特有の兆候があったかどうかを確認することがポイント。幼少期に友だちと遊ぶより独り遊びが多かったか、協調運動やリズム運動は不得意ではなかったかなど、生育歴を細かく確かめる必要があります。同時に、アスペルガー症候群では遺伝的要因が指摘されており、両親や兄弟などの家族歴を尋ねることも重要です。

 したがって、主訴が現時点における対人関係の悩みである場合は、アスペルガー症候群の診断の根拠にはなりません。その場合は、社交不安障害である可能性や、単純にパーソナリティーや能力の問題である可能性の方が高いのです。

――アスペルガー症候群の治療法は?

 当院を受診する成人の発達障害患者の多くはアスペルガー症候群ですが、現在のところ、その中核的な問題である社会性の障害に対する治療薬はありません。例えば、社交不安障害の場合、対人関係に敏感であるため、その不安を取り除くための治療を行うことは可能です。しかし、社会性に対する認知そのものが欠如しているアスペルガー症候群では、生まれつき"心の目"が見えていない状態なので、治療薬や一般的な精神療法はほとんど有効ではありません。

 実際、私自身が担当するアスペルガー症候群の患者でも、うつ病や不安障害などを合併している場合に抗うつ薬や抗精神病薬などを使用する以外は、薬剤は処方していません。

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そこで、具体的な対応としては、アスペルガー症候群と診断された患者は、当院のデイケアへ誘導しています。発達障害専門外来と同時期に立ち上げたもので、その特徴により3つのグループ(水・木・土曜日に開催の各クラブ)に分類しています。水曜クラブと木曜クラブはいずれも働いていない人たちで、前者は言語表出が比較的多い。後者は言語表出が少なく、集団でいることを好まず、社会適応がより難しいのが特徴です。また、土曜クラブは大半が就労中または就労経験者のグループで、社会適応が比較的良い人たちです。

各クラブは、医師をはじめ看護師、臨床心理士、精神保健福祉士、作業療法士などのスタッフが数人入り、社会生活の訓練やオリジナルのプログラムを用いて、患者同士の悩みを共有したり、コミュニケーションに関する訓練やレクリエーション活動を行ったりして、自分らしく生き生きと生活できるような処世術を学ぶ場を提供しています()。

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症状改善も就労への道は困難か

――デイケアの成果は?

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 デイケアに通うアスペルガー症候群患者の多くは性格が明るくなったり、他者とのコミュニケーションが改善したりしています。しかし、就労については現在のところ結果に結び付いているとはいえません。

 働いていない患者を対象としたグループ(水曜クラブと木曜クラブ)のプログラム終了時点では、39人のうちで就職に結び付いたのは11人、作業所や委託訓練などの訓練機関に通うことになったのも11人いました。その一方で、デイケアへの参加を中断したのは4人、プログラム終了後に引きこもりが確認されたのは4人いて、地域との連携の必要性も感じています。

(編集部)

加藤 進昌(かとう のぶまさ)

 1947年、愛知県生まれ。東京大学医学部を卒業し、帝京大学、国立精神衛生研究所、カナダ・マニトバ大学留学、国立精神・神経センター神経研究所室長、滋賀医科大学教授、東京大学大学院教授、東京大学医学部附属病院長などを経て現職に。専門は内分泌学。著書に『とらわれの脳』(監訳、学会出版センター)、『あの人はなぜ相手の気持ちがわからないのか』(PHP文庫)、『大人のアスペルガー症候群』(講談社+α文庫)など。

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