糖尿病治療のおはなし
2012年10月12日 15:01 公開

監修者から

順天堂大学大学院 教授 河盛 隆造 先生

 インスリンは1921年夏に、カナダ・トロント大学で発見されました。そしてわずか2カ月後には、1型糖尿病で治療法がなく、亡くなる寸前であった少年に注射され、劇的な効果を発揮しました。以来90年間、インスリンは"魔法の薬"、"奇跡を生む薬"として絶対的な評価を受け続けています。インスリンを合成し、食事や運動に応じてタイミング良くインスリンを緻密に分泌する膵(すい)臓のベータ(β)細胞が破壊されてしまったため、生きていくのにインスリン注射が1日3~5回必須である1型糖尿病の方にはもちろん、ありふれた病気、2型糖尿病の方であっても、自らのインスリン分泌能力が高度に低下してしまった方にも、インスリン治療が必要になります。

 生活習慣病の代表である2型糖尿病は、一般的には食べ過ぎや運動不足などが引き金になって発症します。膵β細胞はけなげです。高エネルギー・高脂肪食に対応してインスリンを多く分泌して、摂取した栄養素を細胞に利用させます。そして内臓脂肪、皮下脂肪だけではなく、肝臓や筋肉にも脂肪として蓄えます。脂肪が蓄積した肝臓や筋肉ではインスリンの働きが低下します。ますますインスリンを多く分泌しなければならなくなり、やがて疲労困憊(こんぱい)でインスリン分泌が急速に低下していきます。

 このように考えられるので、わずかな異常に気が付いた際や「糖尿病の気がある」と言われた際に、生活習慣を見直し、もう一度完全に正常であった時期に戻るべきなのです。

 一方、糖尿病の治療を受けている方々は、薬を服用している場合が多いでしょう。飲み薬で血糖値を良好にコントロールできている場合は、ぜひその状況を維持してください。血糖値が高い状況が続くことが、膵β細胞のインスリン分泌能力を低下させること、一方、良い血糖値を維持していると、インスリン分泌能力が保たれることが証明されているからです。

 でも、作用の異なる飲み薬を合わせて服用していても、インスリン分泌が少な過ぎるために血糖値のコントロールが不良のままであれば、機を逸さずインスリン注射を開始し、良い血糖値のコントロールに戻すことが求められます。

 2012年6月の米国糖尿病学会では、7年間にわたり世界中で行われた研究結果が報告され、話題になりました。いまだ糖尿病というほどではないが、もはや正常ではない、いわゆる糖尿病予備群の方々に、1日1回注射で24時間インスリンの作用が高まり、ダルマ落としのように血糖値が低下する持効型溶解インスリン製剤を注射した群では、飲み薬などで治療した群に比べ、糖尿病への進行率が低かったのです。

 まして、飲み薬で血糖のコントロールが良くない人では、一度インスリンを用いて血糖値を良くすることが必要でしょう。

 1型糖尿病のケースと異なり、2型糖尿病のインスリン療法の目標は「足らない内因性分泌インスリン量を、足らない時間帯に、足らない量を十分補填(ほてん)する」べきであり、主治医が緻密に投与量を調整し、良い血糖応答を維持し、結果的に「再びインスリン注射が必要でない時期に復する」ことを目指しています。

 症状のない糖尿病の治療の目的は、心筋梗塞や脳卒中を起こさない、目や腎臓の機能を悪化させないことです。「インスリン治療という最高の切り札を温存し、結局出場させる機会がなくゲームオーバーになった!」とならないようにしたいものですね。

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