2013年03月14日 18:17 公開

「他人の便」で糖尿病やメタボも治る? 米医学誌論評

腸内細菌叢の正常化で

 粘膜を破壊する毒素を持つディフィシル菌(Clostridium difficile)の治療に、健康な人の便を十二指腸に注入する方法が有効だったという研究結果が今年1月、米医学誌「New England Journal of Medicine」に発表された(関連記事)。他人の便を自分に注入することの賛否が話題となったが、米モンテフィオーレ医療センターのLawrence J. Brandt氏はこの手法に関する評論を、2月発行の米医学誌「American Journal of Gastroenterology」(2013; 108: 177-185)に発表。糖尿病やメタボリックシンドローム(代謝症候群)、自閉症、パーキンソン病などにも効果を示す報告があるとしている。これらの病気は腸内細菌叢(そう)の変化と関連しており、それが正常化することによって改善するのだという。

腸内細菌叢正常化の究極手段

 人間の大腸内には、500種類以上ともいわれる多くの細菌がすんでおり、それぞれが共存して「腸内細菌叢」を作っている。このバランスが保たれている状態ならば健康だが、何らかの原因で細菌の種類や数が偏ってバランスが崩れると、さまざまな病気にかかりやすくなるといわれている。ヨーグルトなどの乳酸菌食品が「プロバイオティクス」として注目されているのは、腸内細菌叢のバランスを改善する働きがあるためだ。

 腸内細菌叢の乱れは、ディフィシル菌感染症などの下痢や腹痛だけでなく、消化器以外の病気、とりわけ代謝や免疫と関係する病気につながることが、ごく最近になって報告されている。つまり、糖尿病や肥満、メタボリックシンドローム、アレルギー、ぜんそくなども、腸内細菌叢の乱れが引き金になる可能性があるということだ。

 腸内細菌叢を正常な状態にするための究極の手段として脚光を浴びることになったのが、健康な人の便を患者に注入すること。1月に報告されたディフィシル菌感染症へ実施では、重篤な副作用もなく、低コスト・短時間で抗生物質による標準的な治療法をしのぐ効果が示された。

胃がんやぜんそくも腸内細菌叢と関連

 さらに、ディフィシル菌感染症以外の病気に応用する試みも始まっている。これまでに改善(一時的なものも含む)や治癒が報告されている病気は、便秘(特発性)、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群(IBS)、自閉症、慢性疲労症候群、糖尿病、インスリン抵抗性、線維筋痛症、特発性血小板減少性紫斑病、メタボ、多発性硬化症、ミオクローヌス・ジストニア症候群、パーキンソン病などが挙げられる。

 これらに加え、胆石症、大腸がん、肝性脳症、家族性地中海熱、胃がん・胃リンパ腫、さらに関節炎、ぜんそく、アトピー性疾患、自己免疫疾患、湿疹、脂肪肝、花粉症、高コレステロール血症、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)、気分障害、肥満、腎結石も、腸内細菌叢の変化との関連が認められているという。

 さらに、脳や脊髄と腸内細菌叢とが関係するという概念も出てきており、神経疾患や精神疾患との関わりについても議論され始めている。

 Brandt氏は「腸内細菌叢の解明が進むにつれ、(便そのものでなく)必要最小限の微生物相を抽出した"成分注入"も可能になるのではないか」とコメント。さらに「"全ての病気は腸内に起源を持つ"と考えたヒポクラテスが、もし"細菌=悪"との認識が強い今日の状況を知ったら、"正常な腸内細菌叢こそが健康の鍵"と言うに違いない。健康や病気の治療の認識は大きく変わりつつあり、その中心にあるのが腸内細菌叢だ」と締めくくっている。

(編集部)

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