2013年06月06日 11:35 公開

【寄稿】糖質制限食は本当に腎臓へ負担を掛けるのか

北里研究所病院糖尿病センター 山田 悟

〈編集部から〉

 ダイエットから糖尿病治療まで活用できるとして、多くの人の注目を浴びている糖質制限食(低炭水化物食)。その効果については世界的な議論となっています。慎重派の懸念の一つが、食事の中でタンパク質の比率が高くなることによる腎臓への影響。三大栄養素のうち、タンパク質が多いと腎臓に負担を掛けてしまうからです。これについて、最新の研究結果が発表されました。糖質制限食は本当に腎臓へ負担を掛けるのか。糖質制限食推進の立場を取る北里研究所病院(東京都)糖尿病センターの山田悟センター長に解説してもらいました。

研究の背景:学会「提言」でも引用の代表的エビデンス

 今年3月、日本糖尿病学会が出した糖尿病食事療法に関する提言は、これまでのカロリー制限食をスタンダードな治療とする点ではこれまでと変わらないものの、患者の病態や嗜好に合わせて糖質量の設定をエネルギー比率50~60%から逸脱することを許容する、すなわち、緩やかな糖質制限食に道を開く画期的なものであった(関連記事)。

 この提言でも引用されていたのが、イスラエルで実施されたランダム比較試験※1「DIRECT」である。このたび、長期の糖質制限食が腎機能に与える影響について、5月20日発行の米医学誌「Diabetes Care」(電子版)に報告されたのでご紹介したい。

研究のポイント1:3つの食事療法のeGFR対する影響を検討

 DIRECT試験は、40~65歳でBMI(肥満指数)27以上の人、2型糖尿病の人、もしくは冠動脈疾患(心臓を動かす動脈の病気)の人を対象に実施された3群での食事介入試験である。625人を選別して386人が上記の条件に合致し、試験に同意した322人(平均BMI 31、男性86%)が以下の3つの食事療法に割り付けられた。

  1. 低脂肪・カロリー制限食(以下、低脂肪食):米国心臓協会(AHA)の当時のガイドラインに準じた低脂肪かつカロリー制限食
  2. 地中海式カロリー制限食(以下、地中海食):オリーブ油を使用し、肉より魚を優先したカロリー制限食
  3. 糖質制限食:初期2カ月は糖質を1日20グラムまで制限し、その後は最大1日120グラムまで許容するが、カロリー制限はしない食事

 2年間の介入の結果、糖質制限食の減量、脂質・ヘモグロビン(Hb)A1c改善効果が最も大きいことが明らかにされ(米医学誌「New England Journal of Medicine」2008; 359: 229-241)、その減量、脂質改善効果がさらに4年間の観察期間を経て計6年経過しても維持されることも報告された(同誌 2012; 7: 1373-1374)。今回は、腎臓の機能を評価する「推算糸球体濾過量(eGFR)」に対する3つの食事療法の影響を検討したものである。

研究のポイント2:どの食事療法でもeGFRは改善

 2年間の介入の結果、どの食事療法群でもeGFRは改善しており()、慢性腎臓病(CKD)の進行度や2型糖尿病の有無で分類しても同様であった。

 このeGFRの改善と関連する因子を多変量解析※2で求めたところ、食事中のタンパク質摂取量の変化は全く関連がなく、2年間での空腹時インスリンおよび収縮期(最高)血圧が関連していた。また、低脂肪食群や糖質制限食群では体重の部分的なリバウンドが起きていたが、リバウンドしてもeGFRの改善は維持されており、食事介入による腎機能への効果が減量だけでは説明できないことが示唆された。

 また、試験開始時で微量アルブミン尿(糖尿病性腎症の初期段階)を呈していた23人では、それを評価する「ACR」の有意な改善が認められた。地中海食群でのACRの改善はわずかであり(マイナス0.2mg/g・Cr)、低脂肪食群、糖質制限食群でのACRの改善度が大きいようにも思えたが(順にマイナス52.7mg/g・Cr、マイナス37.9mg/g・Cr)、症例数が少なくなるためか、群別で解析するとどの群も有意な改善ではなくなっていた。このACRの変化に対しても、食事中のタンパク質摂取量の変化は全く関係がなかった。

私の考察:腎機能への懸念は糖質制限食を忌避する理由にならない

 糖質制限食を敬遠する先生方の懸念点は、以下の4点にあったように思う。

  1. 長期的安全性が示されていない
  2. カロリーオーバーになって体重増加が生じる
  3. 脂質オーバーになって脂質プロファイルが悪化し動脈硬化症が生じる
  4. タンパク質オーバーになって腎機能の悪化が生じる

 しかし、(1)の長期的安全性については、昨年のDIRECT試験のフォローアップ報告(「New England Journal of Medicine」 2012; 7: 1373-1374)において、6年間は安全であり、体重や脂質に対する有効性が維持されることが示されている。

 (2)のカロリーオーバーについては、当初のDIRECT試験の報告(同誌 2008; 359: 229-241)において、カロリー無制限という指示であっても、他のカロリー制限食群と同様に摂取カロリーが制限され、結果として最も多く体重を減量できることが示されている。

 (3)の脂質オーバーについては、やはり当初のDIRECT試験の報告(同上)で、トリグリセライド(中性脂肪)、HDL(善玉)コレステロールの改善には糖質制限食群が最も優れていることが報告されており、別の解析において総コレステロール, LDL(悪玉)コレステロールについては3群で差異がないことが報告されている(米医学誌「American Journal of Clinical Nutrition」 2011; 94: 1189-1195)。動脈硬化症の予防についての直接的な証明はないが、体重、血糖、血圧、脂質を改善する糖質制限食(国際医学誌「Obesity Reviews」 2012; 13: 1048-1066)が動脈硬化症を引き起こすという考え方には、かなり特殊な理論が必要になるであろう。

 今回、(4)のタンパク質オーバーについての検討が実施され、腎機能の悪化が生じないどころか、2種のカロリー制限食群と同様にeGFRとACRを改善させることが示された。その点では、糖質制限食についての懸念点はおおかた払拭されたといってもよいのかもしれない。

 ただし、このDIRECT試験では、糖質制限群でもタンパク質摂取量は(エネルギー比率としては18.7±3.8%→21.8±3.9%と上昇していたが)2年後の時点で試験開始時から1日当たりマイナス6.9±66.6グラムと減少していたことを忘れるべきではない。糖質制限をカロリー無制限という形で指導しても、タンパク質摂取過剰が生じにくいという理解にとどめておいた方が安全であろう。

 今回の解析を通じて得られる結論は、糖質制限食を実施する際に腎機能(加えて脂質、動脈硬化症)への慎重な経過観察を要するということではこれまでの状況とは変わらないが、それらへの懸念が糖質制限食を忌避する理由にはならないということだと私は考える。

  • ランダム化比較試験......被験者を無作為に処置群と比較対照群に分け、効果を測定する研究手法。介入研究の一つ。RCT、無作為化比較試験。
  • 多変量解析......年齢や性別といったさまざまな要素(変数データ)を一気に解析し、どう関係するかを明らかにする統計的手法。

山田 悟(やまだ さとる)

1994年、慶應義塾大学医学部を卒業し、同大学内科学教室に入局。東京都済生会中央病院などの勤務を経て、2002年から北里研究所病院で勤務。現在、同院糖尿病センター長。診療に従事する傍ら、2型糖尿病についての臨床研究や1型糖尿病の動物実験を進める。日本糖尿病学会の糖尿病専門医および指導医。

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