2013年06月28日 11:30 公開

ワクチン不足で乳児が予防接種できない? 風疹流行の余波

麻疹対策への懸念も

 大人を中心とした風疹の流行によって予防接種を受ける人が増えているが、それに伴い、麻疹風疹ワクチン(MRワクチン)や風疹ワクチンが不足する事態になっている。厚生労働省は現時点で8月頃から不足するとの推計を示しており、メーカーも出荷制限を開始。大人への接種を制限する医療機関が出てきただけでなく、子供の定期接種にも影響が出始めている。一部の医師は、海外からおたふくかぜを含めたMMRワクチンを個人輸入する動きもあるようだ。ワクチンが不足することで、先天性風疹症候群だけでなく、子供の麻疹感染が懸念される。現場の医師たちを取材した。

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推計に医療機関の在庫は含まれず

 「市では、妊娠を予定している女性や妊婦の夫への風疹予防接種の費用助成が行われているが、ワクチンの入手が困難で任意接種の予約を断らざるを得なくなっている」と、埼玉県和光市で診療所を開いている天野教之医師。小児科と内科を標榜(ひょうぼう)しており、これまで大人への任意接種を進めてきた。

 厚労省が公表している資料によると、風疹流行に伴う行政の任意接種の呼び掛けにより、成人の予防接種率が増加。今年5月の1カ月で、例年の1年分の任意接種回数に相当するMRワクチンが使用された。

 厚労省は、この接種実績が続けば、早くて8月からMRワクチンが一時的に不足するとの推計を示している。ただし、この推計はワクチン製造・販売業者、卸売販売業者の在庫数に基づくもので、医療機関の在庫数は把握されていない。

優先順位の協力依頼、実効性は不明

 他の都市でも、MRワクチンの不足は顕在化しつつある。川崎市健康福祉局の坂元昇医務監も、6月24日に開かれた厚労省の専門家会議で「これ以上、任意接種を呼び掛けると小児の定期接種への影響が懸念されるレベル」と発言した。

 前出の天野医師も「メーカー・卸関係者に問い合わせたところ、"厚労省の数字は予測値であり、現実にはワクチンがなくなりつつある"と聞いた」と話す。埼玉県のある公立病院の小児科医も「MRワクチンの在庫不足の通達が来た。これでは1期(1~2歳未満)の子供に定期接種ができなくなる恐れがある。麻疹も怖い病気なのに、この現状はおかしい」と、麻疹対策にも影響が及ぶことを懸念する。

 予防接種の実施主体は市区町村だが、ワクチンの購入は各医療機関の裁量に任されていることが多く、どの医療機関にどのくらいのワクチンの在庫があるのかは詳細に把握できていないのが現状。ワクチンメーカーの一つに「販売者側で医療機関ごとの在庫状況をどのように把握、管理しているのか教えてほしい」と取材を申し込んだが、「基本的に厚労省の発表通りで、お答えできない」とのことだった。

 現在、ワクチン不足への対策として厚労省は、自治体を通じて1期、2期(小学校入学前の1年間)の定期接種対象者、妊婦の家族、妊娠の可能性のある女性と接種の優先順位を付けるよう"協力依頼"を出している。しかし、地域ごとのワクチンの流通状況が不透明な上、子供と大人のどちらを優先するのかは、最終的に医療機関ごとの判断となるため、依頼の実効性は不明だ。

MMRワクチンを個人輸入

 天野医師は「風疹はどこで感染するか分からない上、優先順位を付けて一部の人にだけ接種しても流行予防の意義は少ない」と指摘する。風疹流行を止めて、先天性風疹症候群を少しでも減らしたい。一方、子供のMRワクチン接種率を下げるわけにはいかない。

 そこで一部の医師の間では、海外の先進国で使用されているMMRワクチンを個人輸入する動きも出ている。天野医師もその一人だ。実は、自身も大学時代の眼科実習で先天性白内障が見つかり、先天性風疹症候群と診断されたという。「自分の症状が軽度だったのは運が良かっただけ。先天性風疹症候群は一人でも出すべきではないと痛切に思っている」と輸入を決めた。

 東京都で小児科診療所を開いている野末富男医師も、すでにMMRワクチンの輸入手続きを済ませた。野末医師のところでも国産MRワクチンの供給が少なくなり始めたことから、このままでは小児の定期接種に影響すると判断。今後は、任意接種には輸入のMMRワクチン、子供の定期接種には国産MRワクチンを使い分けていくつもりだと話す。

「自治体が動かなければ大人も子供も共倒れに」

 しかし、新たな問題もある。国内で承認されていないMMRワクチンを使った場合、今のままでは自治体が独自に行っている大人への風疹予防接種の助成制度が利用できない可能性が高い。野末医師が東京都に問い合わせたところ、「市区町村の判断だが、未承認ワクチンの場合、助成が適用されるかは今のところ難しいかもしれない」と回答された。

 安全性が高いとはいっても、接種後の健康被害に対する自治体の補償制度が利用できない上に全額自己負担となると、いったいどのくらいの大人が接種するかは未知数だ。それでも天野医師と野末医師は「より多くの大人に接種しなければ流行は止められない。損失は覚悟の上」と口をそろえる。

 また、両医師は地元議員に対し、地域でのワクチン不足の問題解決に取り組むよう求める活動も並行している。天野医師は「自分の目の前の人だけなんとかするというのでは、半分医師失格。海外からのワクチン緊急輸入について政治的判断を促していきたい」と話している。ある自治体関係者も「国や都府県が大人の任意接種用としてMMRワクチンの緊急輸入でもしない限り、子供も大人も共倒れになりかねない。免疫ゼロの1歳児で風疹が流行すれば、その周りにいる妊婦にまた悲劇が起こる」と危機感をあらわにしている。

(編集部)