2013年08月07日 10:30 公開

"あらゆる予想に反し"ホロコースト生存者は長生き

イスラエル移住のユダヤ人5万5,000人を調査

ドイツ・ベルリンのホロコースト記念碑
ドイツ・ベルリンのホロコースト記念碑

 戦争や災害、犯罪によって生命の危険などにさらされた経験を持つ人では、心に深い傷を持つことが知られるようになった。こうした心の傷は、さまざまな病気になるリスクも高め、ひいては寿命を短くさせる可能性が指摘されている。では、ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)から生還した人の寿命は短くなるのか―。イスラエル・ハイファ大学心理学部のAbraham Sagi-Schwartz氏らは、第二次世界大戦前後にポーランドからイスラエルに移住したユダヤ人5万5,220人を検討したところ、ホロコーストを経験して生き延びた人は、そうでない人に比べて6.5カ月寿命が長いことが分かったと、7月24日発行の米科学誌「PLoS One」(電子版)に報告した。この論文は「Against All Odds(あらゆる予想に反して)」と題されている。

大戦開始時16~20歳だった男性で死亡リスク18%減

 戦争からいじめ、近親者との死別まで、悲しい出来事や衝撃的な事件によって受けた心の傷は、心身にさまざまな障害をもたらすことがある。それに加え、ホロコーストのように栄養や衛生の状態が悪く、保健・医療的に劣悪な環境での生活を強いられた場合、病気になる危険性がより高まるため、Sagi-Schwartz氏らは、研究を始める前にホロコーストを経験して生き延びた人は短命になると予想していた。

 同氏らは、イスラエル国民保険局に登録されたユダヤ人移民のデータから、1919~35年にポーランドで出生し、イスラエルへの移住が(1)ドイツ軍のポーランド侵攻によって第二次世界大戦が始まった1939年以前の1万3,766人(対照グループ)、(2)終戦後の1945~50年だった4万1,454人(ホロコースト経験グループ、移住時の年齢を4~20歳に限定)―の計5万5,220人を対象に、寿命との関連について検討した。なお、1945~50年はホロコースト経験者の大多数がイスラエルに移住した期間という。

 1950~2011年の生存・死亡者数を集計して両グループを比較した結果、死亡リスクはホロコースト経験グループで6.5%低く、寿命も6.5カ月長いことが分かった。大戦が勃発した1939年当時の年齢層別では、死亡リスクは4~9歳と10~15歳で低い傾向にあり、16~20歳では8.9%減。特に、10~15歳と16~20歳の男性で低かった(それぞれ10%減、18%減)。つまり、Sagi-Schwartz氏らの予想とは異なる結果が出たことになる。

長寿の要因は「外傷後成長」か

 以上の結果を受けて、Sagi-Schwartz氏らは「あらゆる予想に反して、ホロコーストという大量虐殺から生還した人は、ホロコーストを経験していない人より長生きすることが示唆された」と結論。その要因として「外傷後成長(PTG)」の可能性を指摘している。

 PTGとは、心の傷をもたらす経験によって苦悩することで、人生のより大きな意義を見いだし、人間的な成長を遂げる現象のこと。Sagi-Schwartz氏らは「ホロコースト生存者はPTGの典型例と考えられる」と推測している。

 加えて、ホロコースト生存者が受けた社会的支援も一因に挙げ、「残酷な状況を生き延びた人たちへの社会的・情緒的、医療的な支援の重要性が浮き彫りになった」結んだ。

(編集部)

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