2013年08月29日 10:30 公開

厳罰化の効果に疑問、てんかんと運転免許問題

学会がシンポジウム開催

 てんかんや認知症など運転に支障を来す恐れのある病気を持つ人について、免許の不正取得防止の厳正化や、交通事故を起こした際の厳罰化を盛り込んだ法案が相次いで国会に提出され、一つはすでに可決・成立、もう一つは今秋にも可決・成立の見通しが高い。日本てんかん学会は8月24日、東京都でシンポジウムを開き、厳罰化の効果に疑問点を提示。厳罰化によらない解決策が提案された。

関連7学会が対策を協議

 2011~12年に栃木県と京都府で発生した自動車死傷事故では、運転者がてんかん患者であり、いずれも事故原因が病気の発作と断定されたことに加え、薬を服用していなかったこと、医師や家族からの忠告を無視して運転していたことなどから、厳罰化への機運が一気に高まった。

 これを受け、免許の不正取得を防ぐ改正道路交通法が6月7日に可決・成立。悪質運転事故の厳罰化を盛り込んだ新法案についても、同19日に衆議院での審議を終え、今秋にも臨時国会で可決される見通し。また、これらに先立ち、5月29日には添付文書に運転禁止の記載がある薬を処方する際、患者への説明を徹底するよう求める厚生労働省の通達が出された。

 日本てんかん学会法的問題検討委員会の松浦雅人委員長(東京医科歯科大学教授)は、厳罰化や厳正化の一途をたどる昨今の動向に対し、同学会など関連7学会による「法的問題検討委員会・関連学会合同会議」の結論を下記の通り報告した。

  1. 刑事法新法について
     病気を理由に刑罰が加重されるという法律で、問題が大きい。日本てんかん学会と日本精神神経学会が文案を作成し賛同する学会が連盟で要望書を提出する。要望書の内容は当事者や専門家を参考人として国会に招致してもらい答弁を議事録に残すこと新法には慎重な運用や病名の根拠と科学的エビデンス(編集部注:根拠となる研究結果)を示すなどの付帯決議を入れる。
  2. 改正道路交通法関連規則について
     病状申告書書式については各学会の意見を警察庁で取りまとめ第2回関連学会合同会議を開催して再検討する。その際通報ガイドラインや運用基準の見直しなどについても協議する。
  3. 薬剤添付文書の運転禁止告知徹底に関する厚労省課長通達について
     非常に多くの薬剤が対象となり社会に対する影響が大きい。一律の運転禁止には医学的科学的根拠がないことを各学会が個別に提言し添付文書の改訂は困難と思われるが医薬品医療機器総合機構(PMDA)へ要請する。

    (シンポジウム配布資料より)

虚偽の報告する恐れ

 ディスカッションでは厳罰化の効果の低さや懸念事項などが指摘された。

 国立精神・神経医療研究センター(東京都)てんかんセンターの大槻泰介氏はてんかん発作が認められるために運転を禁じても、実際には運転している患者がいるとの認識を示した上で、改正道交法に記載された交通事故を起こす危険性の高い患者を国家公安委員会に医師が届け出ることができる制度が盛り込まれたことを疑問視。「運転をやめなければ届け出るとなれば、患者は『発作はない』『運転はしていない』と虚偽の報告をするだけで、何の解決にもならない」と述べた。

 また、てんかんと自動車運転問題では、ともすると若年層の問題と捉えられる向きもあるが、産業医科大学(福岡県)医学部の赤松直樹准教授(神経内科)は欧米のデータを示し、65歳以上で患者が多いことを重要視。「高齢者はどちらかというと物分かりが良く、妥協点を見つけるのがうまいという印象がある。われわれ医師が運転の危険性を指摘すると、運転はしないと言ってくれる」と述べるが、地方では自動車運転が日常生活に欠かせないのが一般的で、通院などで自家用車に頼らざるを得ない人も多いため、「高齢のてんかん患者と自動車運転に関する問題は非常に大きい」と述べた。

 大槻氏は、自動車を運転せざるを得ない状況にあるてんかん患者に対しては、医師から運転の危険性を指摘された患者自らが支援センターに届け出て、何らかの援助と引き替えに運転免許の一時停止を受け入れられるような制度が有効との持論を披露した。

患者が理解するには"北風"だけでなく"太陽"も必要

 一方、東北大学(宮城県)大学院医学系研究科の中里信和教授(てんかん学分野)は、同大学病院で実施しているビデオ脳波モニタリングの有効性を紹介。退院時、患者本人にビデオ映像を見せることで、自身の発作に対する理解や認識の補助をしているという。

 中里教授は「たとえ、どんなに交通の便が悪い地方に暮らしていても、患者本人も死にたくはないから、本当に危険性が認識できれば運転はしない」と発言。さらに、イソップ寓話の『北風と太陽』を例に取り、「自動車運転を法律で縛ったり、医師が禁じたりするのが"北風"とすれば、発作に対する患者本人の理解や認識を助けるようなビデオ脳波モニタリングは"太陽"みたいなもの」と述べ、大槻氏と同様、厳罰化一辺倒の現状に疑問を呈した。

 なお、松浦委員長によると、今回の改正道交法や新法案で対象とされるてんかんなどの特定の病気と自動車事故との関連を明確に示す科学的な根拠はわが国にはなく、国会答弁でもこの点について認める発言がなされたという。

(編集部)

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