麻木久仁子さんインタビュー(脳梗塞・乳がんとの闘い)(4)

2013年09月02日 10:30 公開

麻木久仁子さんインタビュー(脳梗塞・乳がんとの闘い)(4)

家族、そして多くのがん患者と接して考えたこと

――遺伝子検査は受けましたか?

 受けていません。私はホルモン療法が効くタイプなので治療法もあるし、これから先はちゃんと乳がん検査を受け続けていくと思うので、現時点では遺伝子検査までやらなくていいかなと思っています。

 それに、もし私が遺伝子変異を持っているのなら娘にも? という話になっちゃう。まだ18歳の娘を病院に連れて行って、検査して...。遺伝子変異があってもなくても不安を与えてしまう。娘には、体のチェックはこまめにしていくことを勧めた上で、一般的にいわれているよりは少し早めに、一緒に検診を受けに行こうと思っています。ただ、成人してパートナーを見つけた後に遺伝子検査を受けたいというなら、それは彼女の自由ですが...。

 乳がんになったのがちょうど娘の大学受験の時だったんで、伝えて心配かけちゃ悪いなって思いましたが、先生に教わった通りに説明して「今、命に別状はない。大丈夫だから」ってちゃんと話しました。すごく心配もしてくれたけど、自分もしっかりしなきゃと思ったみたいで、「私は私で頑張るから、ママも頑張んなさい」という"有り難いお言葉"も頂戴し、「かたじけのうございます」って感じになれました。

 自分の体のこと、自分のこれからのこと、この際、自分のことだけ考えさせてもらおう、ゆっくり治そうって思えたんです。この1年から1年半くらいで、娘はすごく成長したなって思わされました。

――お母様は?

 母は74歳になるんですが、去年の1月に心臓の手術をしたんです。大動脈弁置換術。それまでは、病気知らずのものすごく活動的で、ダンスが好きで1駅2駅なら歩くよ! っていうようなタイプの元気な人でした。大きな病気は私の方が先だったくらいです。

 その母が、思いがけず大手術を受けることになって、一時は弱々しく「歩いてる間に心臓割れたらどうしよう」なんて言っていました。ところが、手術から半年くらいでリハビリを始めて、1年たった今はもうすっかり元気なってまたシャキシャキしてる。何でかといえば、ベーシックなところがすごく元気な人だったからなんですよ。

 母を見ていて思ったんです、結局は「快食、快眠、快便だな」と。よく食べて、お通じもよくあったみたいだし、夜もよく寝て...。私は、仕事があるから寝ることができなくて3日くらい寝不足でも後でまとめて寝ればいいやとか、お通じもすごく便秘気味で出たり出なかったり、食べるものも仕事の時はお弁当が多かったし、あまり意識していなくて。でも、それはいけないなと思いました。

 とても当たり前のことなんだけど、ちゃんと食欲がある! とか、寝るべき時に眠れる! とか、出すもんはちゃんと出す! ということが基本で、そうやって体をフラットにしておけば、万が一何か病気やケガがあっても対応する気力が湧くんだって思いました。

――運動は?

 しないです。運動大っ嫌い! 運動は体に悪いと思っているくらい(笑)。変に頑張り過ぎないで、ゆったりしている方が私にはいいかな。その方が持続的に頑張れるのかも。

 例えば、自分の気持ちはまだ若いつもりでいるでしょう? でも、自分の中の自分像を裏切ったものが視界に入るときがあるんですよ。自分がどっと老けて見えてギョッとなる。廊下に置いてある姿見の前をふと通った時、「え? 今そこをおばあさんが通った?」って、"小さなおばあさん"が背中から出ている感じ。

――背中から小さなおばあさん?

 年を取ると、背中のファスナー開けて小さなおばあさんが出てきちゃうんです。そのおばあさんを押し込めてもう一回背中のファスナ―をきゅっと上げないと、おばあさんが出っ放しになるんですよ。

 だから気を付けて、生活も楽しむようにしています。前は食べるのがすごく早くて、仕事の前に子供のご飯を作りながら、5分くらいでバーッと、立ってご飯食べちゃうことだってありました。

 今はちゃんと座って、箸置きなんか買ったりして。食事も今まで一つの皿にドサドサって感じ盛りつけていたのを、ちょっと小鉢とか漆のお椀とかを並べて楽しんでいます。最初は娘に「ママ、何事!?」なんて言われましたが(笑)。乗っかっている食べ物は変わらないんですけれど、そんな風に楽しんで食事をしています。

――気持ちが変わったのは病気がきっかけ?

 まあ、そうですね。通っているのが国立がん研究センターだから、来院している人はみんながん患者、すれ違う人すれ違う人全員ががん患者なわけですよ。中には重篤な人もいるでしょう。それぞれ、がんがどこにできたか、どれくらいの進行度合いなのか、家族と闘う人もいれば一人で闘う人もいるし、お年寄りもいればものすごく若い人もいて、遠くから毎日始発電車に乗って来ている人もいる。みんなそれぞれ事情がありながら、こんなに大勢の人がそれぞれ闘っているんだな、人生がこんなにいっぱいあるんだって、一人一人とすれ違うたびに思いました。

 私の場合は、色々な面でありがたかった。早く見つけてくれる先生がいたのも運が良かったし、娘がいてくれてよかったとかね。元気な母もいてくれてよかったなあって。

 ただ、病気のことを公表するのは最初ためらいました。多くのがん患者さんがみんな違う事情を持っていてそれぞれ違うのに、「私はこうだった」って話すことでどこかで誰かを傷つけたりしてはいけないし、不安にさせるようなことを発言したらいけないなんて、色々と考えちゃったんです。

――でも公表に踏み切った

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 はい。今は、みなさんががんのことを考える良いきっかけになればと思っています。結構、みんな検診に行っていないんですよ。例えば、テレビの医療番組で「今日はがん特集です。乳がん、子宮がん...」なんて女性ディレクターが説明してくれたんですが、私が「あなた検診に行った?」って聞くと、「いやあ、行ってないんですよね」って。検診の大切さを伝える番組を作りながら、自分は受けていない。

 働く女性は忙しいし、主婦だってわざわざ家事を置いて、しかもお金を払って。確かに結構、面倒ですよね。それでも検診を受けてほしい。

 乳がんは基本的に検査で分かるし、他のがんと比べて早期発見すれば予後(今後の病状の見通し)が格段に良い。しかも、自治体から補助が出るところもあるでしょう? 補助が出るっていうのは、それだけ効果があるからなんですよ。でも、乳がん検診を受けている人、"タダ券"を使う人が2割しかいないらしいんです。せっかく無料なんだから、その分は行ってほしいな。タダ券なんだから使っちゃえって。

 それと、決意と手続きを経て検診を受けにいくのに、旦那さんや子供から「え? 今日の弁当どうすんだ?」なんて言われたら...ねえ? 受けにいくのが当然のものとして、家族も見守って、送り出してほしい。「家事はいいから、今日はしっかりおっぱい挟んできなさい」なんてね(笑)。

(取材・文:さえき文香/写真:大倉英揮)

麻木 久仁子(あさぎ くにこ)

 1962年、東京都生まれ。学習院大学法学部中退。テレビ、ラジオ番組で司会者、コメンテーターとして活躍するほか、知性派タレントとして各クイズ番組を中心にバラエティー番組への出演機会も多い。お勧めの本を紹介するサイト「HONZ(http://honz.jp/)」や産経新聞では書評を担当するなど、その活動は多岐にわたっている。

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