2013年10月23日 10:30 公開

「全盲の医師」が語る半生、リハビリの大切さを訴える

日本リハビリテーション医学会・市民公開講座

「全盲の医師」守田稔さん
「全盲の医師」守田稔さん

 2003年に全盲の初の医師国家試験合格者であり、現在はかわたペインクリニック(奈良県)で精神科医として勤務する守田稔さん。手や足にも障害を持ちながら不安やうつなどに悩む患者を診療している同氏は9月29日、大阪府で開かれた日本リハビリテーション医学会の市民公開講座で講演。障害と向き合ってきた半生を振り返るとともに、リハビリの重要性を訴えた。座長は、守田さんの担当医であり、現在もリハビリをサポートしている関西医科大学附属滝井病院(大阪府)リハビリテーション科の菅俊光教授が務めた。

ギラン・バレー症候群で手・脚・視覚に障害

 守田さんは二度にわたって手脚の筋肉に麻痺(まひ)が起こるギラン・バレー症候群を発症し、現在は手、脚、視覚に障害を持っている。足は膝下の装具とつえ、車椅子に頼っており、手はボタンを止めるなどの細かな動作が難しい。視覚障害の程度は全盲で、光も感じない。

 精神科医として不安やうつ、不眠症状に悩む患者などの外来診察を行うほか、2008年に結成した視覚障害を持つ医療関係者の団体「視覚障害をもつ医療従事者の会(ゆいまーる)」の代表としても活動している。

 講演では、ギラン・バレー症候群の発症から現在までの経緯とともに、リハビリとの関わりについて振り返った。

最初の発症、小学4年―リハビリの激痛で泣き叫ぶ

 守田さんが最初にギラン・バレー症候群を発症したのは、小学4年生のとき。手脚が動かなくなる症状が現れ、4カ月間の入院生活を送った。病状が落ち着いてから始められたのがリハビリだ。「それが、私の人生とリハビリとの初めての出会いだった」

 寝たきりが続いたために固まってしまった足首の関節を伸ばす治療から始めたが、あまりの激痛に毎回泣いたという。「泣き叫んでいる自分をかわいそうに思ったおじいさんが、『これをあげるから頑張れ』とお相撲さんの手形をくれたのを覚えている」と振り返る。

 車椅子と大きな装具とつえという姿で退院し、小学5年生で復学、午後は毎日リハビリのために通院した。中学へ上がる頃には、歩き方や走ることなどに少しの障害はあるものの、日常生活はほぼ問題ないまでに回復した。

大学5年で再発、人工呼吸器を着ける状態に

 その後、守田さんは医師を目指して関西医科大学(大阪府)に進学。二度目の発症は、医学部5年生の春だった。朝、目が覚めると手脚に力が入らず、その日のうちに呼吸困難となり、明け方には人工呼吸器につながれた。顔面の筋肉も含めて全身が動かなくなり、辛うじて眼球とまばたきができるだけの状態に。視野も急激に狭くなり、左目の中心が少し見えるだけとなった。

 一時は集中治療室で処置を受けていたが、病状は安定した1カ月後に一般病棟へ移動。徐々にまばたきでコミュニケーションが取れるようになったものの視野は回復せず、左目の鍵穴のような視野だけが頼みの綱となった。ひどく気分が沈んでいるときでも、関節が固まることを防ぐ可動域訓練は毎日必ず行っていたという。「24時間寝たきりの私にとって、リハビリを受ける時間はとても気持ちの良いものだった」。そのおかげで後日、最初の発症時のように足首が固まることはなく、痛みに苦しむこともなかった。

 2~3カ月後、舌が動くようになり、初めて自分の体が良い方向に変わったと感じた。少し動くように感じた部位は何度も動かし続けた。「何もしなくても勝手に動くようになるのかもしれないし、どれだけ行っても何もしなかったときと同じくらいしか回復しないかもしれない。けれど、こつこつと何かを積み重ねていれば、1年後には運が悪くても何もしなかったときと同じ、そうでなければ、何もしなかったときよりも良い結果になるだろうと信じてトレーニングを続けた」

 徐々に首から肩、腕、手首へと動く部位が広がった。発症から半年後には自発呼吸も戻り、人工呼吸器が外せるまでに回復、リハビリ室へ通えるようになった。退院したのは発症1年後の4月末だった。

 退院するときには「果たして社会復帰できるのだろうか、日常生活を送れるのだろうか」と、大きな不安と恐怖心に襲われた。そんなとき、リハビリに携わる医師や理学療法士、作業療法士がさまざまなアドバイスや、生活しやすくする道具を考えてくれた。そのおかげで徐々に不安が解消され、次のステップである復学を目指せるようになったという。

目が見えなくても医師国家試験を受けられる!

 周囲の助けを受けながら無事、医学部5年生に復学を果たした守田さんだったが、左目に残った視力も失われてしまった。さらに、最も思い悩んだのは当時、医師国家試験には視力障害が欠格事項であることだったという。

 そんなとき、復学後も定期的に通っていたリハビリ室で知り合った男性が、守田さんに新聞の切り抜きを手渡した。そこには、「欠格事項改訂、目が見えなくても医師国家試験を受けられる可能性が出てきた」と記されていた。タイミングとしては全くの偶然だったが、このニュースを受けて実習と勉強にさらに熱を入れて取り組んだという。

 普段の授業は聴講しながら録音、教科書や問題集を父母に録音してもらい、何度も聞き直した。リハビリ室では筋肉の名称などを医師に教えてもらいながらリハビリに励んだ。

 守田さんのように視覚障害を持つ受験者は初めてだったことから、大学と厚生労働省の間で幾度も交渉が持たれ、最終的に次のような受験方法が決められた。

  • 問題内容と問題数は一般受験者と同じ
  • 別室受験で試験時間は通常の1.5倍
  • 対面朗読で問題を読み、それを録音して聞き直すことは可能
  • 漢字など、文字を尋ねることは可能
  • 口頭で解答し、マークシートには代筆記入
  • 画像問題は問題作成者による画像説明があり、質問は受け付けないあるいは解釈を伴わない質問に対しては返答する

 1日約10時間、3日間にわたる試験を受けた。「厚労省の最大限の配慮により、そのとき持っている最大限の能力を出し切って医師国家試験を受験することができた」という。そして2003年、医師国家試験の合格通知を受け取ることができた。

 守田さんは現在も、精神科医として診療する傍ら、頻度は減ったもののリハビリのために通院している。運動療法の指導を受けるほか、つえや装具、車椅子などについても相談に乗ってもらっている。

 また、学生時代にはほとんど取り組んでいなかった、視覚障害に関する訓練も卒業後に始めた。文字情報を音声で読み上げるパソコンの操作もその一つで、「障害をカバーする能力を身に付けるという意味では、これも一つのリハビリだ」と守田さんは捉えている。

障害者手帳が障害を受け入れるきっかけに

 続いて守田さんは、自分自身の障害と向き合う過程について振り返った。

 ギラン・バレー症候群の発症から最初の数年間は、「手脚も目もいつかは治ってくれるのではないか、治ってほしい」と願っていた。障害と長く付き合わねばならないと思ったのは、障害者手帳を持ったことが一つの契機だった。当初はとてもショックなことだったという。

 しかし、手帳があることで介護サービスを受けられ、電車の切符や施設入場料が安くなることなどから、結果的に日常生活や行動に広がりができ、自分が障害者であることを少しずつ受け入れられるようになったようだ。手帳を持つことを勧めてくれたのはリハビリの担当医師だった。「ずっと身近に寄り添い治療を続けてくれていたからこそ、適切なタイミングで勧めてくれた」と守田さんは言う。

 守田さんは、「障害をどうやって受け入れられたのか」と尋ねられることがよくあり、その問いにこう答えているという。

 「自分自身が今、どれだけ受容できているのかも含めて、分からないというのが正直なところ。障害者であることを受け入れたからといって穏やかに過ごせるわけではないし、状況が悪い方向に変化したときはどうしても落ち込んでしまう。今後も障害の程度が変わるときには落ち込むことがあると思う。また、障害があることそのものではなく、障害がある生活の中でつらく感じることや、落ち込むことも時々ある。最近は、そういうときがあっても当たり前、そんなことがあるのも普通のことと思っている。それが私にとっての受容なのかもしれない」

"やる気を維持する3カ条"

 さらに、さまざまなことへのやる気を保つために、守田さんは主に3つのことを行っているという。

 1つは「趣味」。幼少時から鉄道好きで、今も鉄道旅行や鉄道グッズの収集は変わらず続いている。新たに鉄道の音や歴史にも興味が向くようになったという。「楽しみたいという気持ちがあれば趣味は続く」と考えている。

 2つ目は「何かを頑張ったときに自分へのささやかなご褒美をすること」。いつもより頑張って歩こうと思ったときには目的地を駅にして、帰りは電車に乗って帰ったり、何か美味しいものを食べたり、「自分を餌で釣るようなことを行っている」という。

 3つ目は「同じ障害を持つ人と話をすること」。これまでも、リハビリ室で知り合った患者同士でいろいろな話をしてきた。ほとんどはたわいのない会話だが、たまには互いの病気や障害について話すこともある。「当事者同士の対話も、緩やかに障害を受容することに役立った気がする」と述べている。

 守田さんは、自身がモットーとしている以下の言葉で講演を締めくくった。

 「しんどいときは休んでもいい、歩けるときは歩いていこう、楽しみやご褒美も時々混ぜて、一歩一歩を積み重ねていけば、何もしないよりもきっといつかいいことがある」

(長谷川 愛子)

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