2015年03月13日 10:30 公開

小児科医がズバリ答えます! ワクチンに関する5つの疑問

第1回「ワクチンって病気が流行らなくなれば、もう要らないのでは!?」

〈編集部から〉
 十分な治療法がなく、死亡や重い障害を残す感染症は少なくありません。これまで人類とウイルス、細菌との闘いが繰り広げられてきた中で、最も強力な武器の一つといわれるのがワクチンです。「ワクチンは飲み水の浄化に次いで、多くの子どもの病気を防ぎ、命を救ってきた"医薬品界のスーパースター"」と話すのは、小児感染症の専門家、長崎大学小児科の森内浩幸教授。しかし、普段の診療において、子どもに付き添うママやパパ、おじいちゃん、おばあちゃんたちのワクチンに対する不安や誤解は根強いと感じることも少なくないようです。このシリーズでは普段、医師にはなかなか聞きにくいワクチンに関する5つの疑問を、6回にわたって解説してもらいます。森内教授は「正しい知識を持って、子どもを守るワクチンを上手に利用してほしい」と呼びかけています。第1回は「ワクチンって病気が流行らなくなれば、もう要らないのでは!?」。

過去のワクチン中止により百日ぜきで113人が死亡

 今、日本では予防接種法という法律に基づき、子どもにはしかやジフテリア、ポリオなどのワクチンを接種することが勧奨されています。「回りにそんな病気の患者さんはいないのに、なぜワクチンを使わなくてはならないの?」とよく聞かれます。これらのワクチンで防げる感染症(VPD)は、国内はもとより、海外でも根絶されたわけではありません。今、VPDの多くはワクチンの接種率が高く保たれているために患者が出ていないだけで、予防接種をする人が少なくなれば必ず再流行します。

 分かりやすい例を挙げると、日本では昔、百日ぜきにより赤ちゃんや子どもを中心に毎年10万人以上の患者が発生し、1万人以上が亡くなっていました。1960年代後半、百日ぜきに対するワクチンが広く接種されるようになってからは患者数が激減し、ほとんど見られなくなりました。

 しかし、1970年初め、百日ぜきワクチンを接種した後、2人の赤ちゃんが亡くなりました。当時は「百日ぜきはもはや過去の病気なのに、国がワクチンを勧めたせいで赤ちゃんが死んだ」と大きく報道され、国民は不安に陥りました。国はこれを受け、百日ぜきワクチンの子どもへの接種を数年間中止します。すると、百日ぜきの患者数は年間約1万人を超え、死亡者は年間20~30人に増えました。

 百日ぜきワクチン接種の後に亡くなった2人の赤ちゃんは本当に気の毒です。でも、専門家の間では、ワクチンが死亡の原因だったのかは非常に疑問と考えられています。一方で、ワクチンが再開されるまでの間に113人が百日ぜきのために亡くなりました。国や自治体が予防接種の制度を中止すべきなのか、あるいは保護者が自分の子どもにワクチンを接種するかを判断するには、ワクチン接種の中止により百日ぜきによる死者が113人に増えた事実と、2人の死亡との両方を考えないとなりません。

年間260万人がワクチンで防げる感染症で死亡

 また最近の日本でも、予防接種率の上昇によって国内での流行がなくなった麻疹(はしか)が昨年1月、流行地のフィリピンから持ち込まれ、多くの地域で予防接種前の1歳未満の赤ちゃんや、2回のワクチン接種を済ませていなかった人の間で流行しました。

 毎年、世界で700万人近くの5歳未満の子どもが感染症で死亡しており、そのうち260万人はワクチンが届かないためにVPDで死亡しています。一方、ワクチンの接種率が高い国では過去に年間数千~数万人の患者や死者を出していたVPDの患者が激減していることを忘れないで欲しいと思います。

(まとめ/坂口 恵)

森内浩幸(もりうち ひろゆき)

 1984年、長崎大学医学部卒業。国立仙台病院臨床研究部レジデント、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)研究員、米国立衛生研究所(NIH)臨床スタッフなどを経て、1999年から長崎大学医学部小児科学主任教授。厚生労働省の予防接種・ウイルス感染対策関連の委員なども歴任し、子どもや女性の感染症対策に力を入れている。

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