2015年05月21日 06:00 公開

子宮頸がん予防のためワクチン問題の早期解決を...専門家が提言

「ワクチンと症状に因果関係の根拠ない」

 子宮頸(けい)がんワクチン(ヒトパピローマウイルス=HPV=ワクチン)は、接種後に全身の痛みが出るなどの報告が相次いだことから、国の積極的な接種の呼びかけが中止されている。再開に関しては賛否両論の中で混乱も生じているが、こうした状況について、子宮頸がんワクチン推奨の立場を取る自治医科大学附属さいたま医療センター(さいたま市)産婦人科の今野良教授に聞いた。今野教授は「厚生労働省の見解では機能性身体症状(検査で原因が特定できない体の症状)と判断されているにもかかわらず、因果関係の科学的な根拠がない症例がワクチン接種による副反応(副作用)とされていることが問題」と指摘した上で、接種を受ける女児を全体的に支援する医療体制が必要と訴えている。

導入前後で不調の訴え増えていない

 子宮頸がんワクチンを接種した後の症状については、日本線維筋痛症学会が「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HANS)」を提唱し、昨年には診断基準の案を発表した。一部では、ワクチン接種と全身の痛みや自律神経障害、高次脳機能障害、不登校・授業についていけないケースとの関連、厚労省の過小評価などが問題視されている。

 これに対して今野教授は、ワクチン導入前の2007年と導入後の2013年の国民生活基礎調査から、10~19歳の女子の不調の訴えを比べた結果を示す。この調査では、10~14歳で頭痛や肩凝り、関節の痛み、月経不順・月経痛などの訴えは、導入前と導入後で増加していないことが分かっている。また、導入前を調べたところ、中学生から高校生へ成長するとともに不調の訴えが多くなることも明らかになった。

 このことから今野教授は、子宮頸がんワクチンの導入自体が身体症状の訴えを増やしているわけではないとしている。

低い検診受診率

 2012年の世界の統計(GLOBOCAN)では、日本の子宮頸がん罹患(りかん)率は10万人当たり10.9人だが、米国は同6.6人、オーストラリアは同5.5人。子宮頸がんによる死亡率は、日本の同2.8人に比べて、カナダは同1.7人、オーストラリアは同1.6人、ニュージーランドは同1.4人と低い。

 この背景には、日本が他の先進国に比べ、子宮頸がん検診を受ける割合が低いことがある。子宮頸がん検診の受診率は、米国の83%に対して日本は29%。先進国の中で日本だけが低い状況にある。今野教授は「このままでは、日本に住んでいる女性は先進国の女性に比べて2倍多く子宮頸がんにかかり、2倍多く死亡することになる」と指摘する。

 こうした日本の状況を改善するものとして期待されているのが、子宮頸がんワクチンだ。厚労省は、日本で子宮頸がんワクチンが導入されて以来、ワクチンの接種で予防できた子宮頸がんの患者数は1万3,000~2万人、予防できる子宮頸がんによる死亡は3,600~5,600人と推定している。もちろん、ワクチンだけで防ぐのではなく、「若いうちに子宮頸がんワクチンを接種し、年齢が進んでからは検診を受けるというのがベスト」(今野教授)。

「副作用」ではなく「有害事象」

 子宮頸がんワクチンの安全性は世界保健機関(WHO)のお墨付きだが、厚労省が接種の積極的な呼びかけを再開できないのは、ワクチンの接種と症状が無関係と証明できないからだ。その半面、ワクチン接種と症状が関係あるとも科学的に証明されていない。

 今野教授は「副反応(副作用)という言葉が誤用されており、正しくはワクチン接種後の有害事象というべき。副反応は、因果関係があるかそれが疑われることが前提となる。今後は有害事象調査とし、その中で副反応を選別すべき」と主張する。

 2013年12月の厚労省の専門家会議でも、子宮頸がんワクチン接種後の有害事象は、10万接種当たり約1.5件ということが確認されている。ギランバレー症候群や急性散在性脳脊髄炎(ADEM)などについては、ワクチン接種後の発生率よりも自然に発生する割合の方が高いことが示された。

 今野教授は「本来、自然発生率のデータはワクチンを導入してから集めるものではなく、国の制度としてそれ以前からやっておくべきもの。子宮頸がんワクチン接種後の有害事象のうち、失神とアナフィラキシー以外の神経の病気、免疫疾患、中毒、慢性的な痛みなどはワクチンとの因果関係はなく、有害事象ではあるものの真の副反応ではない"紛れ込み"の可能性が高い」と述べ、「日本には疫学的サーベイランス(動向調査)を行う組織や仕組みがないことが問題」と指摘した。

対応した患者はいずれも"紛れ込み"

 厚労省が子宮頸がんワクチン接種後の症状に関する医療機関を公表した昨年9月辺りから、今野教授の施設には接種後の不調を訴える患者が受診してきている。ただし、昨年12月に対応した数人の患者では、学校や家庭生活、家族間の問題を抱えているほか、持病があるなど、いずれも真の副反応ではない"紛れ込み"と判断できたという。患者の中には、接種前にストレスで手が動かなくなった症例もあり、このケースは精神科疾患(転換性障害)と診断されている。

 今野教授は「自然発生数を常に把握するために、マイナンバー制に基づく調査体制を確立させることが最重要となる。ただし、現状ではまず、両親を含めた対応や、心身の不調の原因などを把握し、ワクチン接種の有無にかかわらず、全体的に支援できるような診療体制を築くことが必要」と強調する。

 なお、今野教授と近畿大学名誉学長の野田起一郎氏が呼びかけ人となっている「HPV JAPAN」は、3月31日に子宮頸がんワクチンへの正しい理解を求め、その接種を推奨するとの声明を発表している。一方、被害者や家族でつくる「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」は同日、救済を求める要求書を厚労省に提出した。それに対する厚労省の動きはまだない。

(あなたの健康百科編集部)

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