2015年06月19日 06:00 公開

東洋伝統医学の正式名称「伝統中医学」に、中国が主導権

ISO専門委員会

 国際標準化機構(ISO)が定める国際規格は、国際的な取引や知的財産権の獲得などで非常に重要となっている。そのISOでは現在、日本や中国などの東アジアで普及している伝統医学の標準化について話し合われているのをご存じだろうか。その委員会の正式名称が、6月初旬に北京で開催された会合で、中国の主張していた「伝統中医学(TCM=Traditional Chinese Medicine)」に決定したと、6月12~14日に富山市で開かれた日本東洋医学会の会合で報告された。中国はISOに、自国の利益を前提とした提案しており、その通りに国際規格が作られた場合、日本や韓国などの不利益になるだけでなく、独自に発展してきた治療法がなくなってしまうことも懸念されている。

国策で動く中国、政府の支援ない日本

 ISOはカメラの感度から会社のマネジメントシステムまで、さまざまな国際規格を定めている組織だ。一方、東アジアの伝統医学は、日本では漢方医学や東洋医学と呼ばれているが、中国や韓国など各国で独自に発展した部分があり、内容はそれぞれで少しずつ異なる。

 中国は、東アジア伝統医学の国際標準化に当たって国策として動いており、2008年にはISOの委員会(TC215=保健医療情報技術委員会)に、自国の「伝統中医学」を国際標準にするよう申請。同委員会が「伝統中医学」ではなく「伝統医学」として国際標準化を目指すとして却下すると、2009年には新たな委員会(TC249)の設置を申請して承認された。

 こうした経緯があり、TC249は自国の利となる国際標準化を強い姿勢で進めようとする中国が主導権を握る。中国は国費としてTC249へ年間500万元(約9,900万円)の予算を投じており、豊富な資金を背景に、旅費や食費、宿泊費を提供して対立国以外の各国代表を非公式会議に招き、賛同国を増やすなどの活動をしているという。また、公式会議の場では「中国側は気に入らないことがあると、(公用語が英語でも)政府の人間が中国語で20分もの演説を行う」(WHO会議の日本代表者)など、強引に持論を展開する場面が少なくないとの証言もある。

 こうした状況のため、TC249の会議名もこれまで、中国が主張する「伝統中医学(仮称)」とされてきた。一方、日本は政府のバックアップがないこともあり、苦戦を強いられている状態だ。その中で韓国と連携し、3カ国の主張を取り入れた「伝統医学:中医学、漢方、韓医学(Traditional Medicine: Chinese Medicine, Kampo and Korean Medicine)」を提案していた。

強行採決に日本は棄権

 今回のTC249の会合(第6回会議)には、中国、韓国、日本、米国、タイ、ドイツ、オーストラリア、カナダ(参加人数順)など、12カ国が参加した。日本代表メンバーを務めた東京有明医療大学保健医療学部の東郷俊宏教授によると、各国から提案された8案から、投票によって「伝統中医学」と「伝統医学:中医学、漢方、韓医学」の2案での決選投票となった。

 決選投票は当初、今会議終了後のTC249全参加国(21カ国)による電子投票の形を取る予定だったが、急遽(きゅうきょ)、今会議での投票が強行。日本は「投票の枠組みに疑問がある」として棄権票を投じたが、結局「伝統中医学」が8票を集め、正式名称として推奨されることが決まったという。

 一方で、TC249では粗雑な規格案が多いほか、中国からは鍼(はり)そのものの品質や安全性だけでなく、鍼治療の安全性も規格化の対象にしようとの提案があった。これに対しては、是正するよう求める日本の主張が通ったようだ。

 東郷教授は、今会議を振り返って「失うものもあったが、将来に向け、欧米諸国と協調しながら高品質の規格をつくり、人類の福祉に寄与していくことが重要とあらためて感じた」と述べている。

(あなたの健康百科編集部)

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