2015年08月31日 10:30 公開

牛乳とホウレンソウは有害なのか―松嶋尚美さんの食育が話題

テレビ番組での発言から

 今年7月7日に放送されたテレビ朝日系バラエティー番組「中居正広のミになる図書館」で、お笑いタレント松嶋尚美さんが語った自身の子供たちへの独特の食育法が話題を呼んだ。番組内で内科医がその効果を否定したものの、松嶋さんの主張に似た説は以前からたびたび取り沙汰されている。果たしてその根拠は何なのか、検証した。

専門家の否定に松嶋さんはショック

 3歳半の男児、2歳の女児の母である松嶋さんは、番組で「牛乳を摂取するとカルシウムが体外に排出されるから飲ませないようにしている」「コマツナが使いやすい上、栄養価も高いと聞いて重用している。ホウレンソウは(アニメの)『ポパイ』の影響が強いだけで、(電子レンジで)チンすると体に良くないと聞いたので使わない」と、知人から聞いたという2つのことを実践していると語った。

 これに対し、番組に登場した大竹真一郎医師が、その両方とも根拠に乏しく、無意味であることを指摘。松嶋さんはショックを受けていた―というのが、話題を呼んだシーンの内容だ。

 しかし、松嶋さんが知人から聞いたという、牛乳有害説、及びホウレンソウ有害説に関しては、実際に耳にしたことがある人も多いのではないだろうか。火のないところに煙は立たないという言葉もある。実際、松嶋さんの主張に関して、どういった根拠があるのだろうか。

牛乳は体に良いのか? 悪いのか?

 まず、牛乳に関してだが、牛乳が有害であるとする説はたびたび出てきており、こと日本において一番大きな論争になったのは、2005年に新谷弘実医師が発表した『病気にならない生き方』(サンマーク出版)という本を巡るものだろう。

 この本の中で、新谷医師は"市販の牛乳は「錆(さ)びた脂」とも言える""カルシウムを取るために飲んだ牛乳のカルシウムは、かえって体内のカルシウム量を減らしてしまう""市販の牛乳を(中略)子牛に飲ませると、その子牛は4、5日で死んでしまうそうです"と、牛乳が健康に良くない食品であるという自説を展開した。

 これに対し、酪農学園大学(北海道江別市)の仁木良哉客員教授(北海道大学名誉教授)が「科学的な根拠に乏しい」と反論し、Jミルク(旧日本酪農乳業協会)が「これまで非科学的な批判に対しては、基本的には放っておくことにしていたが、牛乳を飲まない人の割合が増えたという調査結果が出たり、この本がきっかけになって宅配が止められたりした例も報告されている」と、新谷医師に本の内容に対する公開質問状を提出するなど、一大論争となった。なお、Jミルクの公式サイトでは、現在も公開質問状の内容や、この本やその他の牛乳有害説に対する反論を公開している。

 これらのやり取りに対し、世間では新谷医師の主張を信じる者、仁木客員教授やJミルクの主張を信じる者がそれぞれ存在するが、科学的根拠に富んでいるのは後者であるという認識が一般的なようだ。

 また最近では、2014年10月にスウェーデン人を対象とした研究で"牛乳摂取量の多い人は少ない人より寿命が短く、女性では骨折が増えさえする"という結果が出たことが、英医学誌『BMJ』(2014; 349: g6015)に発表され、再び牛乳有害説が拡散することとなったが、こちらに関してもJミルクは公式サイトで見解を示している。

ホウレンソウに有害物質が多いのは確か

 続いて、ホウレンソウに関してだが、こちらはもっぱら含まれている硝酸とシュウ酸の害について論議されることが多いようだ。恵泉女子大学(東京都多摩市)の藤田智教授の論文によると、硝酸は体内に入ることで亜硝酸へと変化し、この亜硝酸がメトヘモグロビン血症の原因となったり、ニトロソアミンという発がん物質を生成する原因となったりする。また、シュウ酸は体内でシュウ酸塩を沈着させ、尿路結石などの原因になったり、体内でカルシウムや鉄と結び付くことでそれらの吸収を妨げたりするという。

 農林水産省の公式サイトによると、国際連合食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同食品添加物専門家会議(JECFA)が定めた一日の摂取許容量は、硝酸塩換算で体重1キロ当たり0~5ミリグラムなのに対し、ホウレンソウ1キロ当たりに含まれているのは3,000~4,000ミリグラム。体重70キロの人ならば一日許容量は350ミリグラム程度となるので、ホウレンソウ100グラムで許容量に達してしまう計算となる。

 シュウ酸に関してはそうした許容量のデータが見つからなかったのだが、「医薬品情報21」というサイトに掲載されているでは、ホウレンソウは6番目にシュウ酸含有量が多い食材となっている。

 このように、各種データを見ると、実際にホウレンソウが体に悪いようなイメージを受けるが、上記の藤田教授の論文では、ホウレンソウを2~3分茹(ゆ)でこぼすことにより、シュウ酸の溶出量が30~60%になり、茹でこぼしに加えてさらに10分間水にさらすことで、硝酸の70~80%が溶け出すと紹介されている。

 そう考えると、ホウレンソウを一日500グラム程度取らなければ一日許容量に達しないため、常識的な量を摂取する分には、硝酸に関しては問題がないだと言えるだろう。シュウ酸については、「中居正広のミになる図書館」で大竹医師が生で500グラム~1キロ程度食べなければ大丈夫と語っていた。しかし、具体的な許容量のデータを見つけることができなかったため、断言するだけの材料がないものの、筆者が調べる限りでは、同じく生で大量に食べない限りは害がないと記述されていることは多く、そういった認識が広く伝わっていることは確かなようだ。

 上記の通り、松嶋さんの主張は、全く根も葉もないわけではないものの、実際には正当性がかなり微妙と言えそうだ。

 無論、筆者は専門家ではないため、これらの情報の正当性について絶対の保証をすることはかなわないが、松嶋さんのようにある事柄について伝聞だけで信じるのではなく、ある程度は自ら情報を集めることで、その正当性を判断する習慣をつけ、取捨選択をできるようになるのが望ましいだろう。

(阿左美賢治)

関連リンク(外部サイト)