2015年10月16日 06:00 公開

ピロリ菌を除去すれば胃がんのリスクは大きく減る!

胃がんの予防から治療まで―日本胃癌学会市民公開講座

 がんによる死亡者数の中でも肺がんに次いで2番目に多く、毎年約5万人が命を落としている胃がん(国立がん研究センター2013年調べ)。日本胃癌(がん)学会は10月10日、東京都内で市民公開講座を開き、その中で東邦大学の三木一正名誉教授ら4人の専門医が、胃がんのリスク検診や内視鏡治療、腹腔(ふくくう)鏡手術、薬物治療の最新情報をそれぞれ紹介。ヘリコバクター・ピロリ(以下、ピロリ菌)を除去すれば、胃がんのリスクが大きく下がることなどレクチャーした。講演に先立ち、司会を務めた聖路加国際病院消化器センターの太田惠一朗センター長は「胃がんはがんで亡くなる方の中で1位ではなくなりましたが、数は減ってはいません。今日は、胃がんのことを予防から治療に至るまで勉強してください」とあいさつした。

一番の予防法はピロリ菌の除去

 最初に登壇した三木名誉教授は、胃がんの一番の危険因子は毒性が非常に強い遺伝子を持つ細菌、ピロリ菌への感染であり、「胃がんを防御するにはピロリ菌を除去して、たばこをやめることの2点に尽きる」と話した。

 2005年にノーベル賞を受賞したロビン・ウォレンとバリー・マーシャルの功績によって、胃がんの発生はほぼピロリ菌感染者のみということが判明している。特に20歳代、30歳代でピロリ菌を除去すると、胃がんは99パーセント予防できるという。

 近年、このピロリ菌感染の有無を調べる検査と、加齢による胃粘膜の萎縮の有無を調べる検査を組み合わせた「胃がんリスク検診」が行われている。問診や血液検査の結果をA群からD群に分類することから「ABC検診」とも呼ばれており、ピロリ菌の感染も胃粘膜の萎縮もないA群は胃がんの発生率が1パーセント以下という調査結果が出ている。ただし、過去にピロリ菌を除菌した人は、同じA群でも純粋な未感染者と同列に考えられないとクギを刺す。

 これまでに、東京都の足立区や目黒区、神奈川県横須賀市など全国で約9万人を検査したところ、がんの発見率が0.35パーセントと、従来のレントゲン検診より3~5倍多いことが分かっている。検査費用も軽減できることから、ABC検診を採用している自治体や企業も増えているという。

体への負担が少ない内視鏡治療

 続いて登壇したのは、聖路加国際病院消化器内科の石井直樹医長。内視鏡による胃がんの検査治療について話した。「内視鏡治療をした後にピロリ菌を退治した患者さんは、ピロリ菌を退治しなかった患者さんに比べ、胃がんが再発する可能性を約3分の1に減らすことができます」と、石井医長もピロリ菌除去の重要性を説く。

 内視鏡治療は、青い色素(インジゴカルミン)や酢酸を胃の内部に吹きかけて粘膜を染め、がんを見やすくし、見えたがんを切除するもの。近年、がんを見えるようにする技術は進んでおり、切除する方法も高周波メスを使うなど著しく進化している。

 内視鏡治療が優れているのは、痛みや出血など体への負担が少ないこと(低侵襲)と、治療後も臓器の機能が保たれること(温存)の2点。石井医長は「がんは恐ろしい病気ですが、早期発見・早期治療で5年以上生存する割合は95パーセント以上になります。自分の胃袋がどういう状態なのか知ってもらうためにも、ぜひ内視鏡検査を受けて」と話した。

翌日から歩行も可能な腹腔鏡手術

 休憩を挟んで3番目に登壇した聖路加国際病院消化器・一般外科の久保田啓介医長は、腹腔鏡手術の現状について述べた。

 腹腔鏡手術とは、直径0.5~1センチメートル程度の穴を腹部に数カ所開け、そこから専用の器具を入れて、テレビモニターを見ながら手術を行うというものだ。

 従来の手術は、みぞおちからヘソの辺りまでを切開するので体への負担が大きく、傷痕も残りやすい。また、術後しばらくは寝たきりになるため、肺炎や脚の血栓など合併症が発生する可能性も高まる。

 一方で、腹腔鏡手術は「表面の傷も小さくて目立たず、術後の痛みがきわめて少ないため、翌日から歩くことも可能であり、腹部の癒着も起きにくい」と久保田医師は説明する。近年では、3D画像と手ブレ防止機能、多関節機能を装備した手術支援ロボット「ダヴィンチ」も登場し、聖路加国際病院でも2013年からロボット支援下胃切除術を始めた。

 また、胃を切除した患者は食事がしにくくなるもの。だが、食材の選択や栄養剤の使用も含め、必要なカロリーを摂取できるよう、医師、看護師、栄養士、薬剤師が一つのチームとなって、患者が栄養障害に陥らないようケアしていると久保田医長は話した。

抗がん剤治療で生存率1割上昇も

 最後に登壇したのは、聖路加国際病院消化器内科の髙木浩一副医長。主に薬物治療を担当している髙木副医長によると、現在ではフッ化プリミジンなどの抗がん剤のほか、がん細胞のタンパク質や遺伝子を攻撃する分子標的薬を使用した薬物治療が行われているという。

 例えば、ステージ2、3の胃がんを手術で切除し、無治療で経過観察された患者と、抗がん剤TS-1を服用した人を5年間にわたって比べたところ、再発しなかった割合は無治療の人が53パーセントに対し、抗がん剤を服用した人は65.4パーセントと高い結果を得られた。生存期間も、抗がん剤の方が約10パーセント長かったという。

 賛否両論が話題になることの多い薬物治療だが、髙木副医長は「いろいろな本が出ているので、それらを参考にしたり、信用のおけるかかりつけの医師に相談したり、大切な人と相談して決めるのがいいと思います」と話を締めた。

A群と判定されても数値の確認が必要

 最後に、講師4人が再び登壇して質疑応答が行われた。来場者はピロリ菌についての関心がとりわけ高かったようで、質問もピロリ菌とABC検診に対するものに終始した。

 三木名誉教授は講演の中で、ABC検診のA群はピロリ菌に感染したことがない人と除菌した人の2種類がおり、後者を「偽A」としていた。来場者からその違いについて質問されると、「A群でも1~9までの数値がありますが、3以下であれば問題はありません。4以降の陰性後値は10以降のB群と同じと考えて、呼気(吐いた息)テストや内視鏡検査を受けるなど、2次検査を受けてください」と回答した。

 ピロリ菌の検査方法に関する質問に対しては、「調べる方法は6種類あります。顕微鏡検査や組織培養法、内視鏡を使う方法、さらには血液、尿、便の検査。そして、呼気テストです。感度が一番高い方法は呼気テストと便の抗原検査で、単に血液や尿を調べただけでは100パーセント保証できません。(一つの検査結果だけで)不安な人は、違う検査項目を受けてください」と説明。2時間半にわたって行われた講座も、盛況のうちに幕を閉じた。

(文・写真/萩原忠久)

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