2015年11月04日 17:00 公開

ハムやソーセージの「発がん性」、日本人は心配なし?

 国際がん研究組織(IARC)が10月26日に、ハムやソーセージなどの加工肉を「発がん性がある(グループ1)」、赤身肉を「発がん性がおそらくある(グループ2A)」と分類すると発表し(「Lancet Oncology」電子版)、各メディアが一斉に報道した。IARCの発表はこれまでも、携帯電話の電波や身の回りの化学物質などの評価で注目を浴びてきたが、今回は非常に身近な食品の評価だったこともあり、国内外でかなりの反響があったようだ。IARCの上部団体である世界保健機関(WHO)は「問い合わせが殺到した」ため、公式サイトにQ&Aを掲載。各国当局や団体もIARCの論文に対してさまざまな反応をしており、日本では国立がん研究センターが「日本人の平均的な摂取の範囲であれば、大腸がんリスクに与える影響はないか、あっても小さい」との見解を示している。

ハム・ソーセージだけでない「加工肉」

 波紋の発端は、「Carcinogenicity of consumption of red and processed meat(赤身肉と加工肉の摂取による発がん性)」と題したIARCの論文が発表されたこと。シンプルながら、インパクト十分なタイトルだ。論文では、赤身肉の定義や栄養上の意義、肉を加工する過程で生じる発がん性物質、今回の発がん性評価の方法などが説明されている。

 その上で論文では、加工肉について大腸がんとの関連を示す十分なエビデンス(根拠となる研究結果)のほか、胃がんとの関係が確認されたと指摘。赤身肉については、大腸がんや膵臓(すいぞう)がん、前立腺がんとの関係が確認されているとしている。

 一部の報道では、加工肉を「ハムやソーセージ」と分かりやすく言い換えていたが、論文では、ハムやソーセージを作る過程(薫製や塩漬けなど)だけでなく、一般家庭での調理でも発がん性が疑われる物質が多量に発生するとしている。なお、赤身肉とは「未加工の哺乳類の筋肉から成る肉」と定義され、牛、豚、羊、馬、ヤギなどが含まれるという。

IARCが評価する発がん性は普通の「リスク」とは異なる!?

 ところで、IARCによる発がん性の評価とはどのようなものなのか。公式サイトの説明によると、評価するのは「ある条件でがんの危険性を引き起こす可能性がある危害要因(ハザード)」。それにさらされることによる健康への悪影響の起こりやすさ(リスク)ではないという。例えば、卵で検出されるサルモネラ属菌は"ハザード"、それを食べる人に起こる食中毒は"リスク"に当たる。評価報告そのものは、多くの人の日常生活に突然、影響するようなケースは少ないと言えるだろう。

日本人の場合は?

 しかし、こうした発表を目にしてまず知りたいことは、「自分に対する"リスク"評価」だろう。肉を食べる量は個人差があり、IARCの発表論文によると、日常の食事に占める割合は赤肉で5%以下~ほぼ100%、加工肉では2%以下~65%と、かなり幅があるそうだ。

 国立がん研究センターはIARCの発表を受け、10月29日に「赤肉・加工肉のがんリスクについて」と題した報道資料を発表した。これは2011年の研究から導き出されたもので、肉全体の摂取量が多い男性(1日100グラム以上)と、赤肉の摂取量が多い女性(1日80グラム以上)で、大腸がん(結腸がん)になる危険性などが上がっていたなどとしている。

 同センターはその上で、大腸がんに関しては「日本人の平均的な摂取の範囲であれば、赤身肉や加工肉がリスクに与える影響はないか、あっても小さい」との見解を示している。

「肉食止めるべき?」「生肉なら大丈夫?」

 論文の発表後に問い合わせが殺到したことから、IARCの上部団体であるWHOは10月29日に、公式サイトでQ&A集を掲載した。「肉を食べるのを止めるべきか?」「鶏肉と魚だけ食べればいいの?」「ベジタリアンになるべき?」といった質問には、以下のように回答している。

  • 肉類の摂取には健康上の利点が確認されている
  • 鶏肉や魚とがんリスクの検討は行われていない
  • ベジタリアンと肉のみを食べている人の健康リスクを比べた研究はなく、実施も難しい

 このほか、「生肉のほうが安全?」という疑問に対しては、「生肉とがんリスクの関連を調べた研究はないが、感染症の危険性が高まるという別の問題に留意する必要がある」、「他の保存法(冷凍保存や放射線照射など)による影響は検討している?」には、「異なる保存法による発がん性物質(NOC)の産生が知られているが、がんリスクへの関与は不明」など、興味深いやり取りも掲載されている。

北米食肉研「IARCの発表は人騒がせ」

 こうした一連の波紋から、食肉加工会社などによるロビー団体「北米食肉研究所(NAMI)」は、IARCの発表について「人騒がせ」との声明を発表した。同団体は、特定の結論を導くための検討で、リスクを上回るような利点が検討されていないなどと説明。「赤身肉や加工肉は、IARCが"ハザード"を評価した940種類の物質の一つにすぎず、一つの物質に"発がん性がある"と判定されたからといって、がんが引き起こされるわけではない」とした。

 さらに、これまでIARCが加工肉と同じ「発がん性がある(グループ1)」と分類しているのは、呼吸、太陽光、ワインが挙げられ、赤身肉と同じ「発がん性がおそらくある(グループ2A)」も、美容師、交代制の仕事があると主張。美容師や交代制の仕事に就いている人は「新しい仕事を探すべきだろうか」とし、IARCの評価をそのまま日常生活に取り入れるものではないと、警鐘を鳴らしている。

 IARCは、来年5月にコーヒー、マテ茶、非常に熱い飲み物の発がん性を評価する予定。こちらも、結果次第で大きな話題となりそうだ。なお、すでにコーヒーは「グループ2B(ヒトに対する発がん性が疑われる)」、熱いマテ茶は赤身肉と同じ「グループ2A」に分類されている。

(あなたの健康百科編集部)

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