2015年12月28日 06:00 公開

「牛丼食べ続けてもメタボにならない」に医師が待った!

発表内容に6つの問題点

〈編集部から〉
 牛丼チェーン大手の吉野家ホールディングスは12月9日、牛丼の具を3カ月間、毎日食べ続けても、生活習慣病の原因となるメタボリックシンドロームを引き起こすような体重、体脂肪率、血圧、中性脂肪、コレステロール類、血糖値などの変化はなかったとの調査結果を発表しました。牛丼が「不健康なイメージに巻き込まれてる懸念がある」とする同社は、そうしたイメージを払拭するために今回の調査結果を公表したとしています。ところが、この報告を受けてネットでは調査の不十分さを指摘する声が相次ぎました。そこで「あなたの健康百科」では、総合病院に勤務する循環器内科のある女性医師に、今回の報告について評価してもらいました。調査の意義については価値が高いとする一方、発表内容については6つの問題点があるとしています。

「丼もの=悪」に一石投じる研究だが...

 本研究は、「吉野家」の牛丼の具を、被験者に3カ月間、毎日食べさせ続けたという、ある意味過酷な研究です。吉野家は、食の欧米化に伴うメタボリックシンドロームの増加の原因が、牛肉をはじめとする畜肉だ! とする世間の風評を覆すべく、本研究を立案したそうです。

 臨床の現場でも、自炊しない生活習慣病患者に対する食事指導は非常に難しく、手軽に食べられる丼ものなどの一品料理を悪者することがよくあります。今回の研究の趣旨は、畜肉や丼ものを全て「悪」とする風潮に一石を投じるもので、そういう意味では価値が高いと考えます。

 今回の研究は以下の方法で行われました。

対象者:20~64歳の男女24人(平均年齢44.8歳)※血糖値正常高値・境界型5人含む
食事方法:日常生活の中で吉野家の「冷凍牛丼の具」を1日1食、12週間続けて食べる
期間:研究前、開始4、8、12週後、終了4週後に検査を実施
検査項目:体重、BMI(肥満指数)、体脂肪率、血圧、脈拍、コレステロール、中性脂肪などの血液検査、尿タンパクなどの尿検査を実施。食事内容(回数、量)、飲酒量、運動量、便通、睡眠時間、特定保健用食品などの摂取、自覚症状、医療機関の受診、治療内容、医薬品の使用などは日誌に記入してもらった

 そして吉野家は、今回の調査について報道発表資料で以下のように結論付けています。

〈栄養分析結果から、私たちは吉野家の牛丼の具には生活習慣病を誘導もしくは増悪するリスクはないと推定していましたが、今回実際に吉野家の「冷凍牛丼の具」を食事とともに12週間摂取していただいた健常成人男女および、血糖値の高めな方々においても、摂取前と後でなんら健康リスクが増加する兆しは見られなかった事を皆様にご報告させていただきます。〉

 つまり、今回の調査をもって、「吉野家の牛丼の具」を食べ続けても生活習慣病リスクにならないとしているのです。しかし、公表された内容を読み解くと、本研究にはいくつかの問題点があると思われます。

公表データ不十分で客観的評価できない

 本研究の限界としてまず挙げられるのは、(1)被験者数が少ない、(2)観察期間が短い、(3)比較する対照群を設定していない―の3点です。

 被験者数は24人であり、これでは一般的な傾向を見るのは困難でしょう。また、生活習慣病とはその名の通り、子供の頃から続く長年の生活習慣が影響してくる病気です。3カ月の観察で生活習慣病の誘導や増悪のリスクがないとするには無理があります。さらに、こうした観察研究の場合、どうしても「牛丼の具を摂取しなかった人たち」(対照群)との比較を見てみたくなります。

 このほか、食事内容などを記した日誌の内容が公開されておらず、試験期間中の食生活を精査することができません。医師としては、牛丼の具を含んだ1日の総摂取カロリーや野菜・果物など副菜の摂取状況など、興味が湧くところです。

 同様に、糖尿病以外の既往歴や服薬内容も不明。公表された研究内容からは、開始前の時点で高血圧や脂質異常症などの生活習慣病を発症している人が除外されていることが強く推測されます。また、開始前の中性脂肪(TG)が76.3±33.2mg/dLというのは、普段健康診断の実務に関わっている身からすると、前提条件が良過ぎる気がしないでもありません。すでに生活習慣病を発症している方を被験者に入れないと、少なくとも「増悪リスクはない」と言い切ることは難しいと考えます。

 さらに、血糖値の評価が曖昧です。本研究で血糖の値として表されているのは、その場で測定されたその日の血糖値だけ。しかも、血糖測定の条件(任意の外来受診時か空腹時か)が不明です。値を見る限り、恐らく空腹時血糖だと思うのですが、いずれにせよ血糖値で糖尿病の評価をするのは困難です。グリコアルブミンやHbA1cの数週間~数カ月間のデータがない限り、本当に糖代謝に影響がなかったどうかについてはコメントが難しいと思います。

 本研究をさらに有意義なものにするには、被験者数と観察期間を増やし、対照群を設けて第三者が客観的に評価できるようにする必要があると考えます。

(まとめ/小島領平)

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