どうぶつDr馬場のペットにまつわる病気のおはなし
2016年04月27日 10:30 公開

狂犬病ワクチンの接種、なぜ毎年必要?

 犬の飼い主の方々は、4月になって役所からハガキが届き「今年も狂犬病の予防接種に行かなきゃ」と思っているのではないでしょうか。既に予防接種を済ませたという方も多いかもしれません。役所からハガキが来るので接種しているけれど、「そもそも狂犬病って何なの?」「毎年打つ必要があるの?」と、疑問に感じている飼い主の方もいらっしゃいます。実はこの狂犬病、人間にも感染し、致死率はほぼ100%という恐ろしい病気なのです。既にかかりつけの先生から説明を受けている方もいらっしゃるかもしれませんが、改めて狂犬病の予防について、簡単にまとめておきます。

狂犬病について

 狂犬病は、「狂犬病ウイルス」に感染した動物に咬(か)まれることで感染し、致死的な脳脊髄炎を引き起こします。世界中で発生しており、日本のように国内で狂犬病の発症がない「清浄国」はわずかです。

狂犬病は犬だけでなく、全ての哺乳動物に感染・発症する恐れがあり、特にコウモリ、アライグマ、スカンク、キツネなどの野生動物が感染の発生源となることが知られています。

 動物は発症するまで1週間~8カ月の潜伏期があり、潜伏期から唾液中にウイルスを排出します。発症すると抑うつや認知症のような症状がみられ、のちにきわめて攻撃的になります。

 具体的には顔つきが険悪になり、各部位の筋肉が痙攣(けいれん)し、よだれを垂らし唸り声を上げるなど、まさに「狂犬」のようです。脳神経が侵されてしまうため、飼い主も識別不能となりますので、咬傷事故が多発します。興奮状態が2~4日続いた後、四肢の麻痺による運動失調、昏睡状態を1~2日間経て死亡します。

 現在のところ、発症してしまうと有効な治療方法がなく、ほぼ100%助かりません。

なぜ狂犬病の予防が必要なのか

 動物の感染症は数多くあり、命を脅かす重篤な症状を引き起こすものもありますが、国によってワクチンの予防接種が義務付けられているのは狂犬病だけ。なぜなら、狂犬病は動物だけでなく人にも感染する「人獣共通感染症(ズーノーシス)」だからです。ペットの身を守ることも大事なのですが、人を狂犬病の脅威にさらさないことがワクチンを接種しなければならない一番の目的です。

 ちなみに、獣医療に関する法規(資格や動物用医薬品の取り扱いなど)の多くは農林水産省の管轄ですが、狂犬病予防法だけは厚生労働省の管轄となっています。

人の狂犬病とは

 人の狂犬病も他の動物と同様で、感染した動物に咬まれると通常20~90日間の潜伏期間の後に発症します。

 初期にみられる症状は不安感、頭痛、発熱、咬傷部(こうしょうぶ=咬まれて傷になった部分)の知覚異常など。その後、知覚過敏、嚥下(えんげ=のみ込むこと)障害、幻覚、錯乱、全身痙攣を起こします。

 また、水を飲んだり風に吹かれたりしたときの刺激で痛みを伴う痙攣発作が起こることから、「恐水」あるいは「恐風」の状態になります。そして、4~14日間の経過で最終的には呼吸麻痺(まひ)により、ほぼ100%死亡するのです。

 人の狂犬病も動物と同様にとても恐ろしい病気ですので、とにかく感染させないことが重要です。そのためには、狂犬病ウイルスを保有した動物を国内に入れないこと、そして飼育している動物が感染しないように常に免疫力を高めておく必要があります。前者の方法として検疫が、後者の方法としてワクチンがあります。

各国の狂犬病予防事情

 狂犬病の予防策は各国で異なります。狂犬病は前述した通り、全ての哺乳動物に感染する恐れがありますが、主な媒介動物は世界で異なります。アジアでは野犬や未登録で飼育されている犬が非常に多く、犬に対する厳重な対策が必要になります。

 一方、北米やヨーロッパの主な媒介動物は野生生物であるため、例えばアメリカでは、犬への狂犬病ワクチンの予防接種は1~3年に1回とされています。また、日本と同じ狂犬病の清浄国であるイギリスやオーストラリアでは、ワクチン接種が任意だったり禁止されていたりしますが、これは感染の恐れのある動物を入れない、万一発生した場合は迅速に隔離、処分する体制が確立しており、さらに飼育者の意識が高いためといわれています。

 日本は飼い主や社会が動物を飼育することに対しての意識が欧米ほど高くないため、ワクチンによって国内における狂犬病の発生を防いでいるのです。

 幸いなことに、毎年のワクチン接種が狂犬病感染の発生を減らすのに非常に有効であり、日本では1956年以降、犬での発症はありません。

予防接種が毎年必要な理由

 狂犬病ワクチンの予防接種は、厚生労働省の狂犬病予防法により毎年の接種が義務付けられている、と言ってしまえばそれまでなのですが、一応、以下の理由が考えられます。

 ワクチンとは、無毒化した病原体またはその一部を接種することで対象の病原体に対する体の抵抗力を高め、感染を予防するものです。ワクチンには大きく生ワクチンと、不活化ワクチンがあります。前者は弱毒化した生きた菌を接種するため、自然感染に近い免疫を誘導し、長時間持続します。しかし、体内で増殖するため発熱などの副作用が起きやすく、また増殖する際に病原性を獲得してしまう恐れがあります。後者は死んだ菌またはその一部を接種するため、生ワクチンよりも効果が弱く、複数回の接種が必要になります。

 現在、国内で認可を受けている狂犬病ワクチンは不活化ワクチンのみのため(生ワクチンを使用して病原性が復帰しては困ります)、その効果を持続させるため毎年の接種が必要になるのです。

ワクチンの副作用は?

 飼い主の方々の心配事の一つに、ワクチンの副作用があります。わずかではありますが、不活化狂犬病ワクチンにも発熱やアレルギー反応といった副作用が報告されており、不幸にも亡くなってしまった例もあります。

しかし、万一副作用が出てもその多くは治療で改善できるほか、副作用が繰り返し出てしまう子や、ワクチン接種により持病が悪化する恐れがある子は、ワクチン接種を猶予できる場合があります(もちろん猶予した分、日頃から周りの動物や人への接触の仕方に注意しなければなりません)。不安な事が少しでもありましたら、必ずかかりつけの動物病院に相談してください。

 狂犬病ワクチンの接種は、われわれがペットを社会の一員として共に生活していくための責務です。狂犬病に限ったことではありませんが、われわれでルールを作りしっかり守れば、ペットと共に活動する場が増えていきます。動物がいることが当たり前になる社会を、皆で作っていきましょう!

馬場 智成(ばば・ともしげ)

 2005年、麻布大学獣医学部を卒業。同大学大学院に進み、慢性腎不全の研究に従事する傍ら皮膚病理を学び、獣医皮膚科学に興味を持つ。2009年より都内の複数の動物病院勤務を経て、現在、馬場総合動物病院にて診療を行う。日本獣医皮膚科学会所属、日本獣医皮膚科学会認定医。東京水産大学在学中に屋久島に滞在し、アカウミガメ産卵の調査・研究を行う中で、動物の生息する自然環境の在り方について関心を抱いている。

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