2016年08月25日 06:00 公開

バーチャルリアリティで高齢者の転倒を予防

 年を取ると体が思うように動かなくなるばかりか、とっさの判断が難しくなるため、ちょっとした物でつまずきやすくなる。しかし、高齢者の転倒は骨折などのひどいけがにつながりやすく、寝たきりのきっかけになることも多い。転倒を防ぐためには屋内でウォーキングのトレーニングができる健康器具のトレッドミルを使った歩行訓練が効果的とされているが、ベルギーやイスラエルなどの国際共同研究グループは、これにバーチャルリアリティ(仮想現実)の要素を加えた進化形のトレッドミルによる歩行訓練を発案。約280人の高齢者に、このバーチャルリアリティ歩行訓練と通常の歩行訓練のどちらかを受けてもらったところ、いずれの訓練を受けた場合も転倒回数が減ったが、転倒予防効果はバーチャルリアリティ歩行訓練の方が優れていたとする調査結果を発表した。詳細は8月11日発行の医学誌「Lancet」(電子版)に掲載されている。

ゲーム感覚で歩行訓練

 このバーチャルリアリティ歩行訓練では、スポーツジムなどにもある一般的なトレッドミルに加え、前方にモニターとカメラを設置。トレッドミルの上を歩くとカメラが足の動きを捉え、リアルタイムでモニターの画面に動きが再現される仕組みだ(写真)。画面上には歩道が映し出され、時折、水たまりやハードルなどの障害物にも遭遇する。ただ歩くだけでなく、障害物をかわす動きの訓練もできるなど、ゲーム感覚で実生活での転倒を回避するための動きを訓練できるよう設計されている。
 今回の調査に参加したのはベルギー、イスラエル、イタリア、オランダ、英国に住む60~90歳の高齢者282人。介助なしで5分間は自分で歩くことができるが、過去6カ月間に転倒した経験が2回以上あり、再び転倒する可能性が高い高齢者を対象とした。この中にはパーキンソン病患者130人も含まれた。
 研究グループは、このうち154人にはバーチャルリアリティ歩行訓練を、148人には通常のトレッドミルによる歩行訓練を受けてもらい、訓練前と比べた訓練後の実生活での転倒回数を調べた。なお、いずれの訓練も1回当たり45分で、訓練に取り組んだ回数は6週間に平均で16回だった。
 その結果、バーチャルリアリティ歩行訓練と通常のトレッドミルによる歩行訓練のいずれも転倒予防に効果があることが分かったが、バーチャルリアリティ歩行訓練の方がより予防効果に優れ、平均転倒回数が訓練開始前6カ月間の12回から訓練終了後6カ月間には6回へと半減していたという。さらに、パーキンソン病の高齢者で最も転倒回数が減っていたという。

運動機能と認知機能に働きかけて転倒を予防

 研究グループのメンバーでイスラエルのテルアビブ・ソウラスキー・メディカルセンターのアナット・ミレルマン氏は「高齢者の転倒の多くは、つまずいたり障害物を乗り越えられないことで発生する。その原因の一つに、年を取ると注意力や判断力といった認知機能が低下することが挙げられる。ただ、一般的に高齢者の転倒予防を目的とした介入は筋力やバランス、歩行を改善することだけに照準を合わせたものがほとんどなのが現状」と説明。バーチャルリアリティ歩行訓練が、運動機能だけでなく認知機能にも働きかける訓練であることが、今回の調査結果につながったのではないかとの見方を示している。
 なお、トレッドミルにバーチャルリアリティの機能を搭載するための追加費用は約4,000ユーロ(約45万円)だという。同グループは「今後、より長期的な効果を明らかにするための研究が必要だ」とした上で、この歩行訓練装置について「高齢者やパーキンソン病などの体の動きが制限される病気がある患者の転倒を予防し、安全に歩行できるようにする訓練として、スポーツジムやリハビリテーション施設、介護施設などに導入する価値があるかもしれない」と期待を寄せている。

(あなたの健康百科編集部)

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