バンコク発Drワタリの健康見聞録
2016年11月25日 16:00 公開

熱帯医学を学ぶために

 「いや、日本には絶対にデング熱はないです!」

 2014年8月、某関東の救急病院で深夜に訪れたブラジル人(40代男性)に僕は検査が不必要であることを力説していました。

 彼は39℃超の発熱と倦怠感を主訴に来院しましたが、以前母国で感染したデング熱と同じ症状であり、心配だから検査してくれと頼まれたのでした。デング熱の検査を深夜に出来る病院は日本になく、そもそも国内での感染は日本では戦後以降報告がありません。通常自然に軽快することが多く、デング熱用の薬もないので、対処療法を行い帰宅となりました。

 それから3日後、東京でデング熱が発生したというニュースが流れました......。

 もしかしたら、あのブラジル人の患者さんは正しくて、自分は誤診したのかもしれない。この一例の経験が自分を世界中の感染症に眼を向けさせる「キッカケ」となる出来事でした。

学士編入を経て医者の道へ

 私は、十数年前に筋生理学の研究を行うつもりで日本の大学院で学んでいました。その頃、医学部の全過程をわずか4年で体系的に学び卒業できる試験ができたと聞き受験をし、運良く岡山大学に学士編入学することが出来たのです。

 その後は、遠回りをした分、できるだけ早く医師としての実力を付けたいという思いが強く、当時日本で一番救急搬送が多く忙しいと聞いていた急性期病院で朝も夜も土日もなく、診療にあたってきました。

 そして2015年4月、ここ常夏の国際都市バンコクにて臨床熱帯医学の分野で歴史あるタイ国立マヒドン大学に入学しました。遭遇したことのないマラリアやデング熱といった感染症を自分のこの眼で診ること。そして色々な国から集まった医師達と共に日夜学ぶためです。

熱帯医学とはどんなもの?

 日本に住んでいれば、あまり馴染みがない熱帯医学は、蚊に媒介されるマラリア、デング熱、黄熱病、ジカ熱だけではなく、人の糞便や水などから感染する住血吸虫、糞線虫などの寄生虫疾患や、動物との接触で感染しうる人畜共通感染症も含まれ、まさに熱帯地域で発症し得る全ての疾患と定義されます。

 地球上で最も人口が密集している地域が熱帯であり、発展途上国と言われる国々が極端に集中していることが熱帯医学の難しさの一つでもあります。それは、単なる疾患の診断や治療に関する問題以外に環境、衛生状態、経済、政治の問題が深く関わり、一医療者として無力に感じることが多々あります。例えば経口感染するA型やE型肝炎ウィルス、原虫疾患などが流行する発展途上国ではいくら手洗いを推奨しても、生水を飲むなと禁止しても、環境や浄水設備が整っていないためどうしようもないという現実があるのです。

日本でも感染する可能性が

 容易に海外に行き来ができる今の時代、日本人が海外で感染するだけではなく海外からの持ち込みと、それが日本で新しく流行することも想定され、熱帯医学は遠い国の話ではなくなっています。

 今回は自己紹介を兼ねて熱帯医学の触りを紹介させて頂きました。今後は医師からみたバンコクでの生活、健康情報、おもしろ医学知識などもあわせて紹介していきたいと思います。

和足孝之(わたり・たかし)

2009年 岡山大学医学部卒業(学士編入学)。湘南鎌倉総合病院での研修を経て、東京城東病院総合内科の立ち上げ業務後、熱帯医療を体感するためタイに渡り、マヒドン大学臨床熱帯医学大学院で学ぶ。2016年帰国。現在、島根大学医学部卒後臨床研修センター教育専任医師。関東50以上の救急病院で断らずに当直業を行い、医療システムと様々な病院における問題を実感しその提起をブログなどでも発信している。熱血&闘魂という言葉をこよなく愛する暑苦しい3児の父。