2016年12月05日 06:00 公開

小児慢性疲労症候群、意欲低下の謎を解明

将来的な治療にも期待

 「勉強もしないで、毎日だらだらして」「やる気あるの?」「いつも寝てばかりじゃない」―わが子を見て、思わずため息がもれてしまうという親もいるだろう。「やる気」と密接に関わる脳機能の1つに、「報酬(ご褒美)に対する感度」があるという。感度が高いと少ない報酬でもやる気が高まり、学習などの行動が持続する。一方、感度が低いと意欲は低下する。大阪市立大学大学院医学研究科の渡辺恭良名誉教授らをはじめとする共同研究グループは、小児慢性疲労症候群の子どもを対象に報酬への感度を研究し、このほど、その成果を報告した。彼らの脳内では、もらえる報酬が少額だと、学習や記憶、運動などの機能に関与する「線条体」の中でも、「被殻(ひかく)」と呼ばれる部分の神経活動が低下することが、脳血流や脳の神経活動の変化から明らかになったという。研究の詳細は、科学誌「NeuroImage: Clinical」(2016;12:600-606)に掲載されている。

少額報酬だと、小児慢性疲労症候群の脳では活性度が低下

 小児慢性疲労症候群は、3カ月以上続く疲労感やだるさ、睡眠リズムの乱れなどが現れる病気で、不登校の子どもに多く見られる。子どもの疲労は学力の低下につながり、小児慢性疲労症候群の子どもは、学習意欲や記憶力、注意力が低下することで、学校生活がうまく送れなくなる可能性もある。そのため、小児慢性疲労症候群で起こる疲労や学習意欲と脳機能との関係を解明し、有効な治療法を探ることが課題となっていた。

 そこで、共同研究グループは、小児慢性疲労症候群の子ども13人(平均年齢13.6歳、女児6人、男児7人)と、健康な子ども13人(平均年齢13.7歳、女児9人、男児4人)を対象に、金銭的な報酬がもらえるカードめくりゲームを行ってもらい、ゲーム中の脳の活動状態を、「機能的磁気共鳴画像法(fMRI)」という脳血流や脳の神経活動の変化を画像化して捉える方法を用いて測定した。

 また、fMRIを測定する前に、いくつかのアンケートに答えてもらい、ここ数週間の疲労度(疲労スコア)と、普段の学習で十分な成績や評価が得られているか(学習による報酬スコア)を算出した。

 その結果、高額の報酬をもらえる場合、小児慢性疲労症候群児、健康児のいずれも、被殻を含む脳の線条体が活性化していることが分かった。一方で、低い報酬額しかもらえない場合には、小児慢性疲労症候群児の被殻の活性度が、健康児に比べて低下していた。

 続いて、事前に算出した疲労スコアと学習による報酬スコアを使って、被殻の活性度がこれらのスコアと相互に関連しているかについて調べた。すると、疲労スコアが高いほど、また学習による報酬スコアが低いほど、低額の報酬しかもらえない時の被殻の活性度が低くなることが明らかになった。

 これらの研究結果を踏まえ、共同研究グループは、小児慢性疲労症候群の子どもで学習意欲が低下してしまう理由について、「低い報酬しか得られないと分かった時に、脳の線条体が活性化されない状態、つまり報酬への感度の低下状態が関係しているようだ」との結論を導いた。また、本研究で用いたfMRIについて触れ、「小児慢性疲労症候群の子どもの脳活動を傷や痛みを伴うことなく可視化し、評価することができた。治療後に、子どもたちの報酬への感度に改善が見られるか、fMRIで検証していきたい」との意向を示した。

 最後に、共同研究グループは「脳の線条体には、やる気の元となるドーパミンという物質をつくり出す神経(ドーパミン神経)が豊富に集まっている。小児慢性疲労症候群の子どもは、報酬に対するドーパミン神経の活性が低下することで、意欲が低下する可能性が考えられる。今後は、小児慢性疲労症候群に対して、ドーパミン神経に着目した治療法の検討が必要かもしれない」とコメントしている。

この病気に苦しんでいる子どもや家族のためにも、1日も早く有効な治療法が見つかることを期待したい。

(あなたの健康百科編集部)

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