2017年02月24日 06:00 公開

がん患者の「十人十色」を発信

「キャンサーペアレンツ」西口洋平さん

 西口洋平さんは、35歳だった2年前にがんと診断された。5年生存率わずか数%といわれるステージ4の胆管がんだった。治療費のこと、余命のこと、当時まだ6歳だった娘のこと、専業主婦の妻のことなど、心配事や悩み事は尽きなかった。しかし、ひょんなきっかけから、西口さんは今、同世代で子どもを持つがん患者がつながり、語り合える「場」を提供するコミュニティサービスを主宰している。「キャンサーペアレンツ」と名付けたこのサービスは、同じがん患者を中心に550人以上が登録しており、東京や大阪などでワークショップを開催するほどの盛り上がりを見せている。「同じがん患者でもそれぞれの悩みや夢は十人十色。1人1人の声を社会に発信していきたい」と語る西口さんを取材した。

18歳未満の子どもを持つがん患者の発生数は年間5万6,000人

 昨年(2016年)4月、西口さんは「キャンサーペアレンツ〜こどもをもつがん患者でつながろう〜」を設立した。その前年(2015年)2月に、働き盛りの35歳でステージ4の胆管がんと診断された時、誰に何を相談し、押し寄せる不安とどう向き合えばいいのかが分からず、西口さんは途方に暮れた。

 尽きない心配や悩みを抱えながら、家族や友人、知人に支えられ、治療のために休職。2カ月後の4月には職場復帰を果たす。生活に支障を来すような自覚症状も特になく、以前のような生活リズムを取り戻していた同年11月、IT企業に勤める旧友からビジネスコンテストへの応募を打診される。与えられたテーマは医療・ヘルスケア。がんと告知されてから、「何かに挑戦したいという思いが沸き起こっていた」という西口さんは、誘いを受けることに。

 しかし、提案したビジネスアイデアの選考結果は不採用。その理由は、マネタイズが見えないから。とはいえ、西口さんはこれをチャンスと捉えた。「がんになってフルタイムで働けずに収入が減り、治療費もかかるのに、患者から金を取るのか、という声もある。しかし、それこそがこの領域でビジネスがなかなか生まれてこない理由かもしれない」と。

 一方で、それなりのニーズも掴んでいた。国立がん研究センターによると、18歳未満の子どもを持つがん患者の発生数は年間およそ5万6,000人、その子どもはおよそ8万7,000人と推計され、患者の平均年齢は男性46.6歳、女性43.7歳という。「私と同じように孤独な闘いをしているがん患者は実は多い。彼らが話し合える場所を提供したい」と思い、「キャンサーペアレンツ」の立ち上げを決意した。

『がん患者でなくても、夢を夢で終わらせない生き方を』

 設立から1年足らずだが、「キャンサーペアレンツ」の登録者数は既に550人を超える。平均年齢は42歳。がんの部位・種類・ステージや、年齢層などから自分と近い境遇の人を探して、コミュニケーションが取れる仕組みだ。女性なら、将来の妊娠や子連れでの通院など、特有の悩みを分かち合うことで、仲間意識が芽生え、前向きな生き方につなげたい狙いだ。「がん患者に課金はさせたくない」とのポリシーから登録は無料だが、将来はこうした患者ニーズをビジネスにつなげられないかと、マネタイズを模索している。

 普段はオンラインでのコミュニケーションのみだが、昨年は東京と大阪で交流会を実施した。イベントを主催することが初めてだったため不安もあったという西口さん。「いざ当日を迎えてみると、子育て中のがん患者という同じ境遇があるせいか、最初から盛り上がり、われわれスタッフが『静かにしてください』と言わなければ進行できなかったほど」と笑う。3月25日に名古屋で、4月15日に東京でと、今後も交流会は続けて行く。

 現在、西口さんは自らの希望で正社員からアルバイトに勤務形態を変更。週2、3日は通勤、週1回は通院、残りは「キャンサーペアレンツ」の活動や家族との時間に当てている。専門医から驚かれるくらい、元気ではつらつとしている。「『キャンサーペアレンツ』に登録した、余命宣告を受けたがん患者の多くが元気で長生きすれば、いずれ医学の限界を超えられるのではないかと本気で信じている」と話す西口さん。「たとえがん患者でなくても、私たちの元気で前向きな生き方を見て、1人でも多くの人たちが夢を夢で終わらせない生き方をしてもらえれば」と結んだ。

(松浦 庸夫)

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