バンコク発Drワタリの健康見聞録
2017年05月12日 10:00 公開

タイの医療のすごいところ

 前回はタイの私立有名病院バンコクホスピタルについて触れました。日本は国民皆保険制度のもとに、すべての国民が区別されることなく均等に医療を受けることができます。タイも日本と同様に誰しも治療を同様にうける事ができますが、公費でまかなえる医療費は決まっています。

なるべく病院に来させないのがタイ式

 タイの保険制度では、日本の様に超高額な抗がん剤などは国の保険でカバーされません。また、各医療施設の1年の予算が前年度から決められ、その予算内に収めるために「病気にならないように予防医学を充実させる」ことにより力が入れられています。

 なるべく患者を病院に来なくて済むようにすること―例えば禁煙や運動習慣、食生活の改善を促す。そのためプライマリケアに従事する保健師の活躍は日本よりも活発です。

 私がミャンマー国境沿いの過疎地に訪れた時、医師はその地域には常駐しておらず、代わりに保健師が簡単な処方や縫合処置などをしており、日本で言う診療看護師な役割を十分に果たしていました。

 日本でも地方などでの医師不足がたびたび問題となりますが、タイの現状はそれ以上に深刻です。タイは国自体が発展段階であるため、優秀な医師の多くが海外へ流出してしまったり、給料が数倍以上高い都市部の私立病院へ集中する傾向があります。

1年目の研修医でも僻地で活躍できるレベル

 ただ日本よりも優れていると感じることは、医学部での教育の違いがあります。驚くべきことに、タイの医学生は卒業後に僻地の医療現場で直ぐに活躍できるレベルまで鍛えられているのです。医師を育てる事を目的として厳しい授業に加えてより実践的なトレーニングを受けています。

 1年目研修医達が高額な検査に頼らず、詳細な問診と丁寧な身体所見で診断を適格に下していく姿は、正直経験に勝るはずの日本人医師として焦りを感じました。

 彼らは日本では敬遠されがちな英文原著の優れた教科書を用いており、臨床実習は米国的指導スタイル。医学生の時点で日本の研修医程度の業務は実際に行っています。

 現在勤めている島根大学にタイからマヒドン大学の医学生が臨床実習に来日していたので、彼らの優秀さを目の当たりにしました。

 これはタイの医療のすごいところの1つであり、日本の医学部でも、世界中の何処に出しても恥ずかしくない医師を育てていかなければならないと医学教育に携わる身として切に感じました。

和足孝之(わたり・たかし)

2009年 岡山大学医学部卒業(学士編入学)。湘南鎌倉総合病院での研修を経て、東京城東病院総合内科の立ち上げ業務後、熱帯医療を体感するためタイに渡り、マヒドン大学臨床熱帯医学大学院で学ぶ。2016年帰国。現在、島根大学医学部卒後臨床研修センター教育専任医師。関東50以上の救急病院で断らずに当直業を行い、医療システムと様々な病院における問題を実感しその提起をブログなどでも発信している。熱血&闘魂という言葉をこよなく愛する暑苦しい3児の父。