バンコク発Drワタリの健康見聞録
2017年06月30日 10:00 公開

バンコクでの留学生活を終えて

 日本に帰ると「なぜ、タイに留学したのか?」とよく質問されます。最終回はタイへ留学するメリットとは何だったのかを考えました。医療分野の臨床的な細かい部分に関しては、多くの部分をすでに全編にわたってお伝えしたので、大きな視点でのメリットについてお伝えしたいと思います。

英語を気にせず、話せる環境

 まず一つ目には、語学のハードルを下げたということがあります。もちろん、海外において闘う武器は「英語」ですが、英語は単なる道具です。

 タイのマヒドン大学に集まった各国の医師達が自信満々に各国の強いアクセントで話ししている姿をみれば、発音が変だということなど誰も気にしていません。

 総じて日本人は英語の発音に対する苦手意識が植え付けられています。だからこそ英国や米国より多種多様な国から留学生が集まっている環境の方が日本人には抵抗が少なく溶け込みやすいと感じました。

タイと日本の距離的、味覚的、心理的に近い関係

 二つ目はタイが親日国、米を主食とした食文化を持つ仏教国であり、また外国人が数多く生活している点です。15カ月とはいえ家族と一緒に楽しく生活できたのは、日本の外食産業がそのままの味で輸入されている事も大きかったと感じています。

 ややタイ人の「マイペンライ(気にしない)」気質の適当さに面食らうこともありましたが、体調面も維持しやすく、生活費も東京の2分の1~3分の1と安いことは非常に大きなメリットです。

 私は月1~2回、帰国して日本で仕事をしていました。それができたのも夜間にわずか6時間程度で羽田からバンコクへ移動でき、朝の回診などに参加する事ができたからです。

 また、そのおかげで、大量の日本食(蕎麦、味噌、納豆、ふりかけ)やお土産をスーツケース一杯に詰め込んで我が家に帰るという、父親らしい仕事もできました!

 子どもの幼稚園を探すのに苦労しましたが、インターナショナルスクールに通わせました。これは教育費が日本と変わらずかかりましたが、タイにいながらにして多様な国の子供たちと英語で過ごしている姿を見ると自分も頑張らなければと勇気をもらった事を鮮明に覚えています。

外から自分を見て本当の評価を知る

 三つ目は、自分(日本)の強みと弱みを知ることが出来たことです。課題と大量の試験をこなし、色々な国の医師と卒業を目指し切磋琢磨する事は苦労しましたが、日本人としての自分の長所と短所を各国の医師と比較する事で多くのことに気付くことが出来ました。

 日本は素晴らしい国です。色々な分野で優れていると信じていましたが、医学教育に限れば大量の暗記と国家試験に合格することが目的となってしまっている日本の臨床教育は明らかに遅れをとっていると感じました。

 若手医師の臨床能力の差は歴然で、インドやフィリピン、シンガポールなどで学んだ医師の方が世界的に評価が高く実際に現場で通用しています。

 世界大学ランキングなどの評価では、東京大学さえも、国立シンガポール大学や北京大学にかなわない時代に入り、今後もアジア各国の追い上げと追い抜きは加速します。

 勤勉性とモラルに長けている日本人が世界の舞台で活躍する為には、外から自分や日本という国やシステムを自分達の眼で評価する必要があります。それが長所を活かし、短所を改善する事に繋がると思うからです。

 たとえその留学先が、アフリカでも、南米でも、東南アジアという地でも、世界は誰にでも門戸を開かれていると感じています。

 それでは全10回になりましたが、少しでもタイの文化や留学に関して親近感を持って頂ければ幸いです。ありがとうございました。

和足孝之(わたり・たかし)

2009年 岡山大学医学部卒業(学士編入学)。湘南鎌倉総合病院での研修を経て、東京城東病院総合内科の立ち上げ業務後、熱帯医療を体感するためタイに渡り、マヒドン大学臨床熱帯医学大学院で学ぶ。2016年帰国。現在、島根大学医学部卒後臨床研修センター教育専任医師。関東50以上の救急病院で断らずに当直業を行い、医療システムと様々な病院における問題を実感しその提起をブログなどでも発信している。熱血&闘魂という言葉をこよなく愛する暑苦しい3児の父。