2017年07月07日 06:00 公開

よくかむことが、脳の発達に重要

咀嚼刺激の低下が記憶・学習機能を障害する仕組みをマウスで解明

 子どもの頃、「よくかんで食べなさい」と親から言われて育った、という人は少なくないはず。よくかむことで満腹中枢が刺激されダイエット効果があるというのもよく耳にする。しっかりかむことは、体にとって非常に大事なことのようだ。東京医科歯科大学大学院は、神戸大学と共同研究を行い、食べ物を細かくなるまでかみ砕く「咀嚼(そしゃく)」の刺激が成長期に低下すると、記憶を司る脳の海馬という部分の神経細胞が変化して、記憶や学習機能に障害を引き起こすことを、マウスの実験で突き止めた。研究の詳細は、科学誌「Journal of Dental Research」(電子版)に掲載されている。

かむことの少ないマウスで記憶や学習機能を検討

 柔らかく栄養価の高い加工食品が普及する中、わたしたちの咀嚼回数は劇的に少なくなっている。成長期にこの咀嚼回数が低下すると、顎の骨やかむための筋肉 (咀嚼筋) ばかりでなく、脳の発達にも悪影響を及ぼすことが知られている。

 また、加齢に伴い歯を失い咀嚼がうまくいかなくなると、認知症のリスクが高まることが分かっている。現在、世界的に高齢化が進んでいることから、咀嚼機能の低下とそれに伴う脳機能の低下が大きな問題となっているという。

 しかし、咀嚼機能と、記憶や学習、感情などを含めた「高次脳機能」との関係には、不明点も多い。高次脳機能障害を予防するためにも、咀嚼機能と脳機能がどのように関連しているか、その仕組みを解明することが重要な課題とされた。

そこで研究グループは、離乳期から成長期にかけて粉末食を与えることで、咀嚼による歯や顎の骨、筋肉などへの刺激を低下させたマウスを作製し、咀嚼機能と脳機能との関連について検討した。

 まず、研究グループは、明るい箱と暗い箱を用意し、固形食を食べて成長した正常マウスを明るい箱に入れた。すると、不安を感じたマウスは即座に暗い箱に入った。暗い箱に入った際に電気ショックを与え、マウスに恐怖を学習させたところ、それ以降マウスは暗い箱に入るのをためらったという。

 次に、咀嚼刺激の少ないマウスで同様の実験を行ったところ、これらのマウスは電気ショックの恐怖を忘れ、正常マウスより早く暗い箱に入ってしまった。

 つまり、咀嚼刺激の少ないマウスは、正常マウスに比べ、歯と顎の骨、筋肉の成長が抑制されるだけでなく、記憶や学習機能も著しく障害されてしまうことが判明した。

 そこで、記憶と学習を司る脳の海馬という部分を解析したところ、咀嚼刺激の少ないマウスは、神経活動が低下し、神経細胞数が減少していた。

 今回の研究結果を振り返り、研究グループは「成長期に咀嚼刺激が低下すると、あごの骨や咀嚼筋の成長が抑えられてしまう。すると、海馬をはじめとする脳神経系の発達が妨げられ、記憶・学習機能が障害される可能性が示された」とコメント。

 さらに、研究グループは、「記憶・学習機能障害や認知症の予防にとって、咀嚼機能の維持または強化が有効だ」とし、「将来的に人を対象とした研究を含め、咀嚼機能と脳機能を結びつける仕組みがさらに詳しく解明されれば、認知症や記憶・学習機能障害の新たな治療法や予防法の確立につながるかもしれない」と今後に期待を寄せた。

 今回はマウスの検討であり、人での解明が待たれるところだが、ぬれせんべいを買いにふらりと立ち寄った店で、ちょっと硬めのおせんべいを手に取ってしまいそうでは? いずれにしても、普段からよくかむことを意識したい。

(あなたの健康百科編集部)