2017年10月03日 06:00 公開

対話だけで治療!? オープンダイアローグとは

来日した創始者が東大で講演

 「オープンダイアローグ(Open Dialogue)」という精神療法をご存じだろうか。1980年代からフィンランド・西ラップランド地方にあるケロプダス病院で実践されている治療法で、薬剤をほとんど使用せず、在宅でのミーティングを通して統合失調症を治療するというものだ。ここ数年、数多くの関連書籍が出版されるなど、このオープンダイアローグが日本国内でにわかに注目を集めている。8月20日、オープンダイアローグの創始者であるユヴァスキュラ大学のヤーコ・セイックラ教授と元・西ラップランド地方医療区精神科医長のブリジッタ・アラカレ氏が来日した。東京大学・安田講堂で行われた講演の様子を紹介する。

フィンランドでは着実な治療実績が

 オープンダイアローグが実践されているケロプダス病院では、統合失調症発症直後の急性期、依頼があってから24時間以内に専門家によるチームを結成し、患者の自宅で本人と家族を交えたミーティングを開始する。その際、患者、家族、医師、看護師、心理士らが1つの部屋で車座になり、症状が落ち着くまで連日ミーティングを継続する。「一緒のミーティングに参加する中で、何が起こったのか、そしてこれからどうするのか、医師、患者、家族のみんなで考えていくことが重要です」とセイックラ教授は話す。

 「治療法」としては極めてシンプルな手法だが、これまでに着実な治療実績が報告されている。セイックラ氏らが2003年に発表した論文によれば、統合失調症の標準的治療とオープンダイアローグによる治療を比較すると、薬剤の服用を必要とした例は前者の100%に対し後者では35%にとどまったという(Fam Process 2003; 42: 403-418)。 

重要なのは「不確実さに耐える」こと

 オープンダイアローグの根幹にあるのが、「不確実さへの耐性」という考え方だ。ミーティングの際、医師はあえて患者の診断に踏み込まず、不確実な状態を維持したまま対話を継続する。「『これが答え』というものはありません。答えを一緒に作り上げていくプロセスが大切なのです」とアラカレ氏。ミーティングに参加した全員が、「医師」と「患者」の垣根を越えて対等な立場から発言し、じっくりと相互理解を深めていくことが重要だという。

 このようにオープンダイアローグでは、「医師が診断と治療法を示し、患者がそれに従う」という「上下関係」が否定される。精神科医で地域精神保健福祉ネットワーク「ACT-J」での勤務経験を持つ松本衣美氏は、「薬物の過剰投与や施設での身体拘束が社会問題化する中で、オープンダイアローグは"診断→治療→薬物投与"という既存の医学モデルに代わる選択肢になるのでは」と期待を示す。

 医療従事者だけでなく、統合失調症の当事者とその家族も多数参加するなど、静かな熱気に包まれたこの日の講演会。「対話による治療」というオープンダイアローグの「不確実さ」に、日本の精神医療は耐えることができるだろうか。

(あなたの健康百科編集部)