2018年01月16日 06:00 公開

小児の「自制心」、遺伝子の影響は?

 自分の欲求を我慢したり、頭を切り替えたりするなどの「自制心」の基盤となる能力は、実行機能と呼ばれる。近年、幼児期の実行機能の個人差が、児童期の学力や友人関係、成人期の経済状態や健康状態を予測することが示唆されているという。京都大学教育学研究科准教授の森口佑介氏、国立教育政策研究所主任研究官の篠原郁子氏らは、国内の3~6歳の小児81人を対象に研究。実行機能に深く関与する外側前頭前野の活動には、神経伝達物質ドパミンを分解する酵素であるCOMT (カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ)遺伝子が関与しており、その遺伝的影響が見え始めるのは5~6歳以降であることを、Dev Sci. 2018年1月5日オンライン版で報告した。

COMT遺伝子多型による個人差を検討

 過去の発達科学や教育心理学、教育経済学の研究では、多くが知能のみに焦点を当てていたが、近年は「よりよい人生を送る上で、子供のいかなる能力が重要か」が大きな問いになっている。その中で現在、小児の実行機能の個人差が世界的に注目されているという。

 実行機能の個人差をもたらす要因としては、家庭の経済状態や育て方が指摘されているものの、遺伝的な要因はほとんど検討されていない。そこで森口氏らは、遺伝子の個人差に注目し、遺伝子の働きがいつ、どのように小児の実行機能の発達に影響を及ぼすのかを検討した。同氏らが注目したのは、神経伝達物質ドパミンの代謝酵素であるCOMT遺伝子である。その遺伝子多型(Val/Val型、Met/Met型、Met/Val型)により外側前頭前野の働きに違いが生じ、実行機能にも差が出ることが知られている。

 今回、同氏らは、東京および大阪の保育園児(3~6歳)81人の口腔細胞を採取し、COMT遺伝子多型を調べた。また実行機能の1つである認知的柔軟性を調べる「ルール切り替え課題」を行ってもらい、そのときの外側前頭前野の活動を近赤外分光法によって計測した。

 その結果、「ルール切り替え課題」の成績(認知的柔軟性スコア)は、3~4歳では遺伝子多型による違いは認められなかった。一方、5~6歳では、Val/Val型の認知的柔軟性スコアは、Met型(Met/Met型とMet/Val型)に比べて高い傾向を示した。すなわち、Val/Val型を持つ小児では、Met型を持つ小児に比べて、変化への対応能力が高い傾向にあった。さらに、Val/Val型ではMet型に比べて、強く外側前頭前野を活動させていた。

 同氏らは、今回の研究について「遺伝子の働きは、5~6歳になると行動(実行機能)に影響を及ぼすことを示した初の成果」としている。

 また、同氏らは「Val/Val型の幼児は認知的柔軟性に優れることが示されたが、他の側面においても優れているというわけではない。頭の切り替えが得意であるということは、裏返せば何かに集中することは苦手である可能性がある」と指摘。事実、成人における研究では、Val/Val型よりも、Met型の方が作業記憶を得意とすることが報告されている。今後は、小児の遺伝的資質に応じて、異なった子育てや発達支援をすることの有効性の検討が必要になってくるという。

  • 色と形が異なる図柄のカードを用意し、小児が検査者の指示に従って色と形のルールを柔軟に切り替えられるかを調べるもの

(あなたの健康百科編集部)