2018年03月27日 06:00 公開

「スマホ首病」がうつや自殺念慮の一因に?

東京脳神経センター・松井孝嘉理事長が警鐘

 スマートフォン(スマホ)の普及に伴い、さまざまな社会問題も発生している。医療現場では、スマホの長時間使用による抑うつ症状や自殺念慮(死にたい気持ち)が問題視されている。その原因はいくつか指摘されているが、脳神経外科医で東京脳神経センターの松井孝嘉理事長は、スマホを使用する際の顔の下向き姿勢が招く、首の筋肉(頚筋)の異常(こり)が一因であると分析する同理事長は、「スマホ首病」と名付けて日々診療に当たる傍ら、講演などで警鐘を鳴らしている。

「うつ病」と診断・治療されるケースも

 スマホについては近年、過剰使用に伴ういわゆる「スマホ依存」がクローズアップされている。米国では10歳代の若者の自殺急増が問題になっているが、原因については未だ解明されていない部分が多い。松井理事長は、脳神経外科医としてスマホを使用する際の下向き姿勢にその原因があると指摘する。

 同理事長によると、スマホの過剰使用に伴う首の後ろの筋肉のこりにより、さまざまな症状を来たした数多くの患者が、国内はもとより欧米などの諸外国から東京脳神経センターを受診しているという。こうした患者が訴えるのはいわゆる不定愁訴で、過去に受診した医療機関で「異常なし」や「原因不明」などと言われ、未治療であったり、誤った診断に基づく不適切な治療を受けていたりする場合があるという。

  中には、症状に応じて眼科、耳鼻科、消化器科、循環器科、整形外科、脳神経外科、神経外科などの診療科を次々と受診し、「最終的に抑うつ症状が出て精神科を受診し、うつ病と診断されるケースもある」と同氏は語る。実際、スマホの過剰使用による首の筋肉のこりで同センターを受診する患者には、「重症度はさまざまだが、大半の症例で抑うつ症状が見られる」とのこと。

 原因は副交感神経の低下

  しかし、精神疾患のうつ病と、首の筋肉のこりに起因する抑うつ症状には、気分の落ち込みなど共通点も多い半面、「原因のない悲しみを感じるか否かという決定的な違いがある」と松井理事長。つまり、うつ病であれば感じるはずの「悲しみ」を、首の筋肉のこりによる抑うつ症状では感じないというのだ。

  こうした首の筋肉のこりにより、さまざまな身体症状が生じて、やがて抑うつ症状を中心とする精神症状が出る病態を、松井理事長は「スマホ首病」(頸性神経筋症候群、略して頸筋症候群)と名付け、日々診療に当たっている。では、そのメカニズムはどのようなものなのか。

 「スマホの長時間使用などで顔の下向き状態が続くと、首の後ろの筋肉が緊張し、こってしまう。そして首の中にある"副交感神経センター"を障害する。副交感神経は内臓や血管、呼吸器などをコントロールする重要な神経の1つであり、首の筋肉のこりによって副交感神経の働きが低下すると、身体の不調や抑うつ症状など、さまざまな原因不明の症状が現れる」と解説する。

 治療には低周波温熱治療、「ネックリラクゼーション」で予防効果も

  このようなメカニズムによる「スマホ首病」に対しては、個別の症状に応じた対症療法では根本的治療にはならず、かえって薬の副作用による症状の悪化を生じさせる危険さえある。さらに松井理事長は、近年のうつ病患者の増加という現象の主な原因は、スマホとパソコンの長時間使用にあると断言する。3月には、現在のうつ病診療に一石を投じる『スマホ首病が日本を滅ぼす−首を治せば生まれ変わる』という本を出版したばかりだ。

 「スマホ首病」について、メカニズムやうつ病との違いが分かったところで、松井理事長の診療についても紹介する。「まず、40年にわたる研究から導き出した30項目の問診票(画像)を使い、主に副交感神経失調の症状の有無を調べる。次いで、触診により首の後ろの筋肉のこり具合を確かめる。現在のCTやMRI検査では首の筋肉のこりは正確に診断できないため、診察での触診は欠かせないという。ただ、医療機器メーカーと共同で開発中の、首のこり具合を数値化できる画像検査機器が完成間近となっているため、実際の診察で使えるようになれば、より多くの医師が「スマホ首病」を診断できるようになるだろう。これらに加えて精密検査も行って総合的に分析し、首のこりについて診断している」と、松井理事長は説明する。

問診票(一部抜粋)

(東京脳神経センター提供)

「スマホ首病」と診断された場合には、「重症であれば松井病院(香川県にある系列病院)に入院、それ以外はこちらの東京脳神経センターの外来で2種類の異なる波形の低周波治療と温熱治療を行う」。外来であれば、週2〜3回ほどの通院治療を数カ月続けると、90%以上の患者に症状の大きな改善が見られるという。日常的にはとにかく「首を休ませる」ことが重要と話す松井理事長は、「スマホを使用したら、15分おきに30秒リラックスすること」を推奨し、自身が考案した「ネックリラクゼーション」という体操や、首こり予防の「松井式555体操」を、動画などで公開している()。

※   自律神経のバランスを調整する部位が、首の後ろから頭の付け根あたりに存在するという、松井理事長の独自の研究による概念。

(あなたの健康百科編集部)