日本初のネット依存専門治療部を開設

2011年10月12日 17時25分 更新

日本初のネット依存専門治療部を開設

久里浜アルコール症センターの取り組み

 わが国で270万人以上いると推定される「ネット嗜癖(しへき)」。久里浜アルコール症センター(神奈川県)は2011年7月に「ネット依存治療部門」を開設し、ネット嗜癖の治療と研究に取り組んでいる。同センターの樋口進院長と臨床心理士の三原聡子氏に、部門開設の背景や治療法などを聞いた。

20歳代が9割

 2008年の厚生労働科学研究で樋口院長が中心となり、20歳以上の男女7,500人を対象にした飲酒実態と生活習慣に関する実態調査を実施。その際、ニコチンやギャンブルとともに、ネットの利用についても飲酒との関連を調べた。

 米国でネット嗜癖について長年研究を続けているKimberly S. Young氏が1998年に作成した「ネット依存度テスト」の邦訳版を用いて、20~39点を標準ユーザー、40~69点を問題ユーザー、70点以上を重篤問題ユーザーとしたところ、40点以上の人の割合と2008年時の推計人口から算出したネット嗜癖者数は約270万人に上ることが分かった。男女による差はほとんど見られなかったが、20歳代が9割を占めたという。ただし、270万人という数字は20歳以上を対象としており、未成年を含めるとこの数字を上回るのは間違いないだろう。

 このような重大な依存症に対して、これまでわが国では治療に取り組む医療施設がなかった。そこで、近い将来、ネット嗜癖が社会問題化することを想定し、同センターが長年にわたりアルコール依存症の治療や研究で培ってきた専門性を基盤に、ネット依存治療部門を開設するに至ったという。

 7月の開設以来、ネット嗜癖患者として正式に治療を行っている患者数はまだ少ないが、樋口所長らが国内の学会で成人のネット嗜癖の実態について発表したところ、多くの医療者や関係者から反響があったという。わが国では医師の間でもネット嗜癖の存在がほとんど知られていないため、患者の発掘が今後の課題だろう。

治療ポイントはネットの“遮断”でなく“節制”

 ネット嗜癖には、現時点で確立した治療法がないという。米国でネット嗜癖について長年研究を続けているKimberly S. Young氏は、著書『Caught in the Net』の中で、

  1. 自分が失いつつあるものを知る
  2. オンライン利用時間を計る
  3. 時間管理法を使う
  4. 実生活の中で支援を見つける
  5. ネット嗜癖に陥った原因を探る

―などをネット嗜癖からの回復に必要な事柄として挙げている。

 ネット依存治療部門では現在、患者本人への治療のほか、家族にネット嗜癖への理解を深めてもらうための教育も取り入れている。薬物療法については、米国でアルコール依存症の治療に使われる「naltrexone」(日本未発売)をある種のネット嗜癖患者に用いたところ、効果が確認されたという報告があるが、同部門では今のところ薬物療法を考えていないという。治療のポイントは「ネットとのつながりを完全に遮断させるのではなく、節制を促すこと」としている。

精神疾患合併のケースが多い

 また、ネット嗜癖では、双極性障害や注意欠陥・多動性障害(ADHD)など、他の精神疾患を合併したケースが多く認められる。同院を受診した男性では、広場恐怖を伴うパニック障害などが認められ、統合失調症を疑って受診した別の男性は、統合失調症ではなかったものの、発達障害であることが疑われている。

 現在、2人とも2週に1回ほどのペースで受診を続けており、心理的介入による効果が現れているという。

 2005年には携帯電話からのネット利用者数がパソコンからのものを初めて上回ったという報告もあり、ネット嗜癖がさらに社会問題化するのは間違いない。樋口氏らは「実際、われわれの部門の公式ページを見たという神奈川県や横須賀市の教育委員会から、県内や市内の中学生でネット嗜癖と思われる例が多く見られるとの報告や相談が寄せられており、治療ニーズは着実に増えるのは確実視だろう」としている。

(編集部)


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