2011年10月21日 公開

子供時代のストレスで心臓病やがんなどのリスク上昇

仕組みをドイツの権威が解説

 幼少期に虐待やネグレクト(育児放棄)などを受け、強いストレスを経験すると、生涯にわたって精神疾患や心身症だけでなく、がん、心臓病、慢性疾患など身体的疾患も発症しやすくなることが、これまでの神経生物学的研究から示されている。発症の仕組みについて、ドイツ・キンツィヒタール病院心療内科のUlrich T. Egle教授は「幼少期にストレスを受けると、脳がうまく対処しきれないことが多く、ストレスホルモンの増加により脳が損傷された結果、さまざまな身体的障害が生じる」と、第6回一般医学アップデートセミナーで説明した。

記憶に関する脳領域が変化

 人間はストレスを受けると、「コルチゾール」や「カテコールアミン」というホルモンの分泌が促進される。これらのホルモンは血圧の上昇や発汗、胸の高鳴りなどの変化をもたらすが、ストレスに対応できる十分な量のコルチゾールが分泌されると、その情報が脳へ戻されて分泌は抑制される。

 しかし、ストレスがあまりにも大きい場合は、脳への情報フィードバックがうまくいかず、コルチゾールの分泌量が増え続ける。血中の濃度が一定以上になると、脳の重要な領域に毒性が発生し、記憶などにかかわる海馬などが萎縮(いしゅく)し、同じく記憶などにかかわる扁桃体の拡大が起こる。

 拡大した扁桃体は交感神経をさらに活性化させ、これがさまざまな身体的障害を起こす原因となる。Egle教授は、この状態を「ボディービルのようなもの」と例えた上で、「特に、ストレス処理能力が未熟な幼少期にストレスを受けると、生涯にわたって病気にかかりやすくなってしまう」と説明。その中でも、咽頭(いんとう)がん、肺がん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、リウマチ性関節炎、2型糖尿病、心筋梗塞などの冠動脈性心疾患、脳卒中を発症しやすくなることが分かってきたという。

 こうしたことから、同教授は「幼少期からストレスの要因に持続的にさらされたり、ストレスが蓄積されたりすることのないよう、できる限り未然に防ぐ必要がある。また、社会的支援などを活用するのも一案だ」と述べた。

寿命が20年短縮

 複数の先行研究から、ドイツでは、一般的な診療所で治療を受けている患者のうち、30~60%は精神疾患または心身症にかかっていることが分かっている。加えて、精神疾患や心身症を発症してから精神科や心療内科の治療を初めて受けるまでに、平均で7年を要していることも示されており、実際の患者数はさらに多いことが見込まれる。

 また、これらの疾患は欠勤理由としても2番目に多く、早期退職の理由としては最多。中でもうつ病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、不安障害、身体表現性障害、違法薬物・アルコール乱用には、幼少期のストレス経験が深く関与していることが証明されている。

 一方、米国では1万7,000人を対象に、(1)身体的虐待、(2)絶えず言葉で罵倒する、存在価値を否定するなどの心理的虐待、(3)ネグレクト―といった幼少期のストレス要因に関する疫学調査が実施された。この調査では、幼少期のストレス要因の多くが、平均寿命を約20年短縮させることが示されている。

(編集部)