2012年03月08日 公開

「世界初」で「日本発」の不活化ポリオワクチンとは

 不活化ポリオワクチン(IPV)への認知度、日本国内への1日も早い導入への要望が高まっている。ところで、日本で定期接種ワクチンとしての導入が予定されているIPVが「セービン株」由来であることをご存じだろうか。現在、日本国内で医師の個人輸入により用いられているIPVの大半は「野生型の強毒株(ソーク株)」を由来としたものだ。なぜ日本では先進国で多く用いられているソーク株のIPVではなく、経口生ポリオワクチン由来の弱毒株(セービン株)のIPVなのか―。2月19日、東京都で行われたインターナショナルワクチンワークショップでの国立感染症研究所の清水博之氏の講演および同氏への取材、海外のワクチン専門家の反応などを紹介する。

編集部注:この記事には一部、日本で承認されていない薬剤の情報が含まれています。最終的な情報は、承認後の添付文書などをご参照ください。

国産IPVは「世界的根絶後」見越して開発

 世界保健機関(WHO)は先ごろ、4カ国のポリオ常在国のリストから、昨年1月を最後に野生株ポリオ発症例がゼロの状態が1年以上となったインドを外すことを決めた。ポリオは天然痘に続き、ヒトへのワクチン接種で自然界から病原ウイルスをなくす(根絶)2つ目の疾患となるかが焦点とされているが、ここへ来て2012年中に設定されていた根絶の目標の見直しは必至の情勢だ。一方、根絶に向けてもう1つの大きな課題とされるのが、経口生ポリオワクチンの中止に向けた対策だ。

 清水氏によると、ナイジェリアをはじめ、世界各国でこれまで生ワクチンを原因とするワクチン由来ポリオウイルスの流行がたびたび起こっているほか、ワクチン関連ポリオ麻痺(まひ)の発生も問題になっているという。このため、「野生株ポリオ根絶後は世界的な生ワクチン使用停止が望ましく、そのためにはIPVへの切り替えが必要とされている」(同氏)。

 日本では過去に単独セービン株IPVの開発が行われていたが、2005年に中止。その後、ジフテリア・百日ぜき・破傷風の混合(DPT)ワクチンとセービン株IPVの四種混合ワクチン開発が進められてきた。一般的にワクチンの開発には10年以上かかるといわれ、その点では、日本が独自に着手した四種混合IPV開発時期は決して遅かったわけではないだろう。

ワクチン製造工場がウイルス伝播の最大原因に?

 セービン株IPVは生ワクチンに用いられている弱毒化されたウイルスを不活化したもの。これに対し、ソーク株IPVは野生型の強毒株を不活化して作製されている。ソーク株IPVの有効性や安全性はすでに確立されているが、世界的なポリオ根絶達成後にはワクチンの製造工場がポリオウイルス伝播の危険性をはらむと考えられているのだという。

 そのため、途上国でもIPVを使用するに当たり、製造工程からのウイルス伝播の危険性を減らすべく、強毒株ではなく弱毒株を用いたワクチンの開発が進んできたのが背景のようだ(参考:宮村達男氏「世界ポリオ根絶計画から学ぶ感染症コントロールの根本」ウイルス第59巻第2号)。

日本、中国で臨床試験進行中

 現在、セービン株IPVは日本で臨床第3相試験が進められているほか、中国では臨床第2相試験が、オランダでは他国のセービン株IPV開発への技術協力が行われているようだ。論文が公表されている中国の第2相試験(安全性評価が目的)の結果によると、3回目の接種時点で生ワクチンやソーク株IPVと同等の抗体上昇率が示されている(米医学誌「Journal of Infectious Diseases」2012; 205: 237-243)。一方、現時点で国内外の臨床試験データベースには、日本のセービン株IPVを含む四種混合ワクチンのデータは公開されていない。

 現在、先進国で多く用いられているソーク株IPVと今後登場するセービン株IPV、製造方法や抗原量などの違いはあるのだろうか。

 清水氏は「開発中なので詳細は明らかではないが」としながらも、「セービン株IPVの製造過程は、現行のソーク株IPVとほぼ同様。また、独自の抗原量の測定法を開発し、ワクチンに合った抗原の量が検討されている。その上で、各血清型に対しソーク株IPVとは異なる抗原量が設定される。抗原量はワクチンの免疫原性(抗体を作らせる性質)に重要だが、最終的な有用性は臨床試験でヒトへの有効性を確認してから証明される」と説明する。

日本では2種のIPVが流通する可能性

 さらに、日本では現在国内2社が申請中のDPT+セービン株IPV四種混合ワクチンに続いて、従来のソーク株IPVを含む四種混合ワクチンも別の企業から申請される見込み。つまり、日本では今後セービン株IPVとソーク株IPV、2種類のポリオワクチンを含む四種混合ワクチンが流通する可能性がある。これも実現すれば「世界初」となるだろうが、セービン株IPVとソーク株IPVの有効性などの違いを考える必要はないのだろうか。

 「動物試験などの前臨床試験によって抗原量などを設定しているので、いずれのワクチンも複数回(3~4回)の接種後で、体の中の中和抗体(抗原の性質を失わせる抗体)誘導が期待できる」と清水氏。ただし、この点に関しても「ワクチンの有効性は最終的にはヒトでの成績で証明されるので、少なくともセービン株IPVについては、治験の成績および今後の臨床研究データの評価が必要」とコメントした。

 また、ソーク株IPVを含む四種混合ワクチンについても「ソーク株IPVについては、海外製品における海外での十分なデータがあるが、日本で開発されている四種混合ワクチンはDPT成分が国産であるため、既存のソーク株IPVと全く同じワクチンとは言えない」と述べている。

海外先進国の専門家の反応は...

 インターナショナルワクチンワークショップの運営委員の1人Stanley A. Plotkin氏(ペンシルベニア大学名誉教授 兼 サノフィパスツール社顧問)はワークショップ後、メディアに対し「先進国では既にソーク株IPVが用いられており、セービン株IPVへの切り替えはないだろう」との見方を示した。

 また、同ワークショップで講演を行ったオランダ国立公衆衛生環境研究所のWilfried A. M. Bakker氏は「セービン株IPVへの完全な切り替えには、ソーク株IPVと同等かそれを上回る安全性と野生株ポリオウイルスに対する抗体上昇が証明される必要がある」としている。

(編集部)