舌が不自由な人に補助具を、食への意欲湧く
口の中の機能が改善
舌がんの手術で舌を切除したり、病気やけがをしたりして舌が不自由になると、水や食べ物がのみ込みにくい。こうした摂食・嚥下(えんげ)障害に対して、入れ歯型の摂食・嚥下障害補助具がある。装着すれば口の中の機能が改善して、食べる意欲も出てくる。
食事時間も短縮
水や食べ物をのみ込むとき、口の中では、歯をかみ合わせながら、舌で上顎をぐっと押し付ける状態になっている。摂食・嚥下障害補助具の一つ「舌接触補助床」は、短くなった舌を上顎に付きやすくする、摂食・嚥下リハビリテーションの専用器具だ。
日本大学歯学部付属歯科病院(東京都)摂食機能療法科の植田耕一郎教授は、摂食・嚥下障害補助具による治療を行っている施設39カ所で、舌がんの手術を受けた患者ら142人を、舌接触補助床による治療とリハビリを並行した74人と、リハビリだけを行った68人とに分けて治療効果を比較した。
その結果、前者では後者より早く効果が表れ、舌接触補助床を使い始めて2週間でのみ込み動作などの改善が見られたという。患者の反応も「食事時間が短くなった」「食べる意欲が湧いてきた」と良好だった。
普及図る必要
ただ、植田教授が全国の歯科診療所など3,529カ所を対象に行った調査では、摂食・嚥下障害補助具による治療を行っている歯科診療所はわずか3%にすぎない。
また、何らかの摂食・嚥下障害補助具が必要と判断される患者は年間1万6,368人おり、そのうち約1万人は治療を受けていない現状が明らかになった。「そのまま放置すると、誤嚥(ごえん)性肺炎、窒息などを起こす可能性がある」として、摂食・嚥下障害補助具の装着を勧める。
「歯科診療所を中心に摂食・嚥下障害補助具の普及を図る必要がありますが、まずは摂食・嚥下リハビリテーションの認識を高めることが重要」と植田教授は指摘する。なお、舌接触補助床の治療は保険診療の対象になっている。
(編集部)
2011年11月取材(記事内容、医師の所属・肩書きは取材当時のもの)