2013年03月22日 公開

【寄稿】学会提言、全ての糖質制限食を否定していない

北里研究所病院糖尿病センター長 山田 悟

〈編集部から〉

 糖尿病の治療からダイエットまで、さまざまな人たちから注目を浴びている「糖質制限食」。ご飯やパン、麺類などの糖質(炭水化物)を制限して肉や魚などのタンパク質を中心にする食事法ですが、その是非を巡って世界中で議論が展開されています(関連記事)。こうした中、日本糖尿病学会が3月18日付で、極端な糖質制限食について「勧められない」との提言を発表しました(関連記事)。理由は「長期的なエビデンス(科学的根拠となる研究結果)が不足している」ためとしています。では、本当に糖質制限食は「勧められない」のか。糖質制限食を推進する立場を取る北里研究所病院糖尿病センターの山田悟センター長に解説してもらいました。

妥当かつ健全で極めて前向きな内容

 日本糖尿病学会が3月18日付けで発表した糖尿病食事療法に関する提言に対して、日本糖尿病学会が全ての糖質制限食を否定したかのごとき報道もなされている。ここに、私自身の今回の提言に対する解釈と、それを受けての私自身の今後の展望についてあらためて述べたい。

 まず、今回の提言のポイントは以下の3点にあると考える。※カッコ内は学会提言内のページ数と行数

(1)極端な糖質制限を勧められないとした(5ページ目、第8行)

 これまで、学会の指針を示した『科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン』において、糖質制限食について明確なコメントをしていなかったが、今回、アトキンスダイエット(炭水化物摂取量を1日当たり50グラム以下とするもの)のような、極端な糖質制限を明確に否定した。これは安全性の確保という点で私も同意できるところである。

 このような安全性の確保という視点を最初に述べながら、同時に提言として以下のことも示そうという姿勢は、社会的責任の大きな学会として妥当かつ健全なものと感じられる。

(2)適正な糖質摂取量のエビデンス不足を確認し、学会の積極的な調査・研究対象課題とした(5ページ目、第15行)

 これまで『科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン』において、糖質を指示エネルギー量の50%以上60%を超えない範囲とすることを推奨度Aで勧告してきたが、そこにエビデンスが不足していることを今回あらためて確認した。そして、今回の提言では、さらに踏み込んで適正な糖質(炭水化物)摂取量を学会の調査・研究対象課題であるとしている。

 このような科学の進歩に寄与しようという姿勢は、極めて前向きであると考えられる。

(3)糖質摂取比率について患者の嗜好や主治医の裁量を認めた(5ページ目、第24行)

 これまで『科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン』において、摂取エネルギーの調節の必要性についての言及はあったものの、三大栄養素についてはそのような調節の記述はなく、糖質を指示エネルギー量の50%以上60%を超えない範囲とすることのみを推奨度Aで勧告してきた。今回の提言では、その勧告を維持はしたものの、糖質の摂取比率を(60%以上や)50%未満になることを許容して、患者の(運動量や)嗜好性や病態に対応することを認めている。

 これは、患者の嗜好という概念を治療選択の基準の一つにし、主治医の裁量による糖質量の変更に自由度を与えたという点で、私が極めてうれしく思うところであり、まさに現代において適切な考え方であると思われる。

糖質制限食を安全に社会に普及させたい

 今回の提言を受けて、私自身はこれまでと同様に(極端でない)糖質制限食を治療食の一つとして採用し、また、これまで以上に安全に社会に普及させたいと考えている。

 その際には、いっそう、尿ケトン体(脂肪が燃焼したときに出る成分)に目を配るなどして極端な糖質制限食から患者がデメリットを受けることがないよう留意し、単に治療食として糖質制限食を採用するのみならず、食事療法の臨床試験の実施・論文化に努力したいと思う。そして、そうした活動を通じて、これからも「楽しくて続けたくなる糖尿病療養」の探索・実現に努力する所存である。

山田 悟(やまだ さとる)

1994年、慶應義塾大学医学部を卒業し、同大学内科学教室に入局。東京都済生会中央病院などの勤務を経て、2002年から北里研究所病院で勤務。現在、同院糖尿病センター長。診療に従事する傍ら、2型糖尿病についての臨床研究や1型糖尿病の動物実験を進める。日本糖尿病学会の糖尿病専門医および指導医。

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