2013年07月31日 公開

ダウン症の染色体異常を丸ごとストップ、治療実現に第一歩

米研究

 高齢出産が増えている昨今、高齢出産でリスクが高まるダウン症が注目されている。事前に遺伝子異常があるかどうかを調べる「出生前診断」が話題になる一方、治療に向けた研究も進んでいるようだ。こうした中、ダウン症に特有の余分な21番染色体の活動を丸ごと封じ込める画期的な治療法が、現実のものとなるかもしれない。まだ培養細胞での研究段階であり、実用化までには乗り越えなければならない多くの困難が予想されるとはいえ、米マサチューセッツ大学病院のJun Jiang氏らによって7月17日発行の英科学誌「Nature」(電子版)に発表されたその大胆な着想は、将来の実現を予感させるにふさわしい第一歩といえるだろう。

X染色体の活動止める「ノンコーディングRNA」に着目

 遺伝情報が記録されているDNAをまとめている染色体は、人間では父母それぞれから由来する2本ずつ23組(1~22番染色体と1組の性染色体)で構成されている。ダウン症はこのうち、21番染色体が1本多い「トリソミー」と呼ばれる染色体異常だ。

 Jiang氏らが今回、「Xist」というRNAに着目した。RNAはDNAに記録されている遺伝情報をもとに体を作っていく実行部隊のことだが、Xistはタンパク質を作ることはしない「ノンコーディングRNA」の一つ。1996年に、性染色体のコントロールに重要な役割を果たすものとして発見された(「Nature」1996; 379: 131-137)。

 人間の場合、性染色体は男性ならY染色体とX染色体で1組、女性なら2つのX染色体で1組となっているが、女性のX染色体が2つとも働くと遺伝子の発現量が過剰になってしまう。そのため、一方のX染色体の活動を抑える「X染色体の不活性化」が起こるのだが、Xistは不活性化される方のX染色体から転写され、その染色体にべたべたと張り付き、染色体上のほぼ全ての遺伝子の転写を抑制する。

 Jiang氏らは、X染色体を丸ごと不活性化するXistの機能が、21番染色体の活動を抑えることに応用できないかと考えたのだ。

ダウン症よって変化した細胞機能も正常化

 Jiang氏らは、遺伝子組み換え法によってダウン症患者から培養されたiPS細胞(人工多能性幹細胞)が持つ21番染色体の1本にXist遺伝子を組み込んだ。さらに、遺伝子の発現を誘導する薬を加えたところ、約3週間後に全10個の遺伝子が発現しなくなった。

 また、ゲノム全体の遺伝子発現量を解析すると、3本の21番染色体全体からの発現量のほとんどを平均で15~20%程度抑制しており、トリソミーでない2本の21番染色体からの総発現量とほぼ同程度にまで抑えられることが分かった。この発現抑制は、Xistの影響がなくても30日間は安定的に維持されたという。

 さらに、Xistがダウン症によって低下した細胞を増殖する機能を回復し、神経細胞に分化する機能も正常細胞並みに戻すことが確認された。

1~2年後には13、18トリソミーにも応用可能か

 Jiang氏によると、この方法の長所は、一度Xistを組み込んでしまえば、あとは発現させるだけで、ほぼ100%の抑制効果が得られる点だという。したがって、通常の遺伝子組み換えにつきものの、高い効果が得られるクローンの選択という操作が不要となる。

 さらに同氏は、この強力な染色体不活性化効果が、今後1~2年以内には13番や18番などの染色体異常にも応用できるだろうとしている。

 培養細胞レベルでの効果を、実際の医療現場で使えるようになるには膨大な時間がかかることが予想されるが、染色体異常の治療にこれ以上の理想的な方法はないことから、一刻も早い臨床研究への展開が期待される。

(サイエンスライター・神無 久)

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