2013年08月05日 公開

うつ病予防の鍵は「食」にあり、「健康日本食」の効果とは

国立国際医療研究センター・南里明子室長に聞く

精神疾患にも「医食同源」を!
精神疾患にも「医食同源」を!

 病気の治療と日常の食事は根源が同じとする「医食同源」は、中国の「薬食同源」思想に着想を得て、1970年代初めに日本で造られた言葉だという。すでに一般社会でも知られている発想だが、精神疾患と「食」の関連についての研究が本格的に行われてきたのはここ十数年と、まだ日は浅い。とはいえ、ようやく国内外から研究の成果が集積されつつある。国立国際医療研究センター臨床研究センター(東京都)栄養疫学研究室の南里明子室長に、うつ病予防の観点から栄養や食事パターンとの関連について聞いた。南里室長が推奨する「健康日本食」のうつ病予防効果とは?

コーヒー・緑茶で39~46%の抑うつリスク低下

――代表的な栄養素と精神疾患との関連は?

 私自身が取り組んできた研究結果からも、いくつかの代表的な栄養素とうつ病や抑うつ症状との関連が示されています。

 まず、気分障害(うつ病や双極性障害など)との関連が報告されている葉酸について。21~67歳の日本人の男女530人を対象に検討した結果、女性では関連が示されなかったものの、男性では血液(血清)中の葉酸濃度が最も低い人と比べて高い人ほど抑うつ症状が47~67%減少しました(「European Journal of Clinical Nutrition」2010; 64: 289-296)。3年後に同じ人たちを対象に同じ検討を行ったところ、男女ともに葉酸濃度が高い人で抑うつ症状が減っていました(「Psychiatry Research」2012; 200: 349-353)。

 また、血液(血清)中のビタミンD濃度(25ヒドロキシビタミンD=カルシフェジオール)は、夏場でも冬場でも統計学的に意味のある差ではなかったものの、冬場では抑うつ症状が減少する傾向が見られました(「European Journal of Clinical Nutrition」2009; 64: 289-296)。

 この論文を発表した当時(2009年)、ビタミンDと抑うつ症状の関連を調べた研究があまり報告されていませんでした。しかし、近年は報告数が増えており、カナダ・聖ヨゼフ病院のRebecca E. S. Anglin氏らの研究では、ビタミンD濃度が高い人たちに比べ、低い人でうつ病を発症するリスクが2.21倍、それまでの研究をまとめて解析した結果でもうつ病リスクが1.31倍に上昇していることが分かっています(「British Journal of Psychiatry」2013; 202: 100-107)。

――具体的な食品や飲料との関連については?

 緑茶・コーヒーと抑うつ症状について検討した私たちの研究があります。20~68歳の日本人の男女530人超を対象に検討したところ、緑茶またはコーヒーを飲む量が増えるほど抑うつ症状のリスクが下がっていきました(「Public Health Nutrition」2013年3月4日発行電子版)。

 コーヒーについては、砂糖やミルクを入れているか、ブラックなのかについてまでは検討をしていません。ただ、この研究の筆頭著者である当研究部特任研究員のNgoc Minh Pham氏が担当している別の研究では、加糖飲料や砂糖の摂取量が多いほど抑うつ症状のリスクが上がるという結果が出ているようです。

「健康日本食」は抑うつ症状リスク56%下げる

――食事とサプリメント(栄養補助食品)による違いは?

 栄養素を食事から取るかサプリメントから取るのかについては、おそらく、単体の栄養素を摂取するサプリメントに対し、さまざまな食材の食べ合わせにより複合的に栄養素を摂取できる食事では、より大きな効果が生まれるのではないかと推察しています。

 「食」といえば、食事の時間なども関係してくると考えられ、私自身も大変興味を持っています。摂取時間やスピードなどとうつ病との関連についても検討してみたいと考えていますが、現時点ではまだ解析できていません。

――今後の研究における課題は?

 食事が先かうつ病が先かの順序を明確にすることと、本当に予防可能かどうかの検証が必要です。また、特定の栄養素だけでなく、食事全体と精神疾患の関連についても調べて行きたいと思っています。

 これまでに私たちが行った食事全体を検討したものとしては、日本人の男女約500人を対象に行った研究があります。食事内容を(1)「健康日本食」、(2)肉・魚中心の「動物性食」、(3)パンなどの「洋風朝食」―の3つのパターンに分け、その頻度と抑うつ症状との関連を見たところ、健康日本食のみで、割合が多いほど抑うつ症状のリスクが56%低下しました(「European Journal of Clinical Nutrition」2010; 64: 832-839)。

 ちなみに、上記の研究で「健康食」とはせず、あえて「健康"日本"食」としたのには理由があります。どの国でも健康食には野菜や果物が含まれますが、日本食にはキノコ類や大豆食品、小魚などが含まれているためです。

 これまで栄養素や食事パターンなどとうつ病との関連をテーマに研究を行ってきましたが、結局、食事のバランスが大切であることをあらためて感じています。上記で示唆されたような「健康日本食」によるうつ病の予防効果についても、今後は介入研究による検証を進めていきたいと思います。

  • 介入研究......病気と因果関係があると考えられる要因に薬の投与などの介入を行い、介入が有効かどうかを確認する研究手法。ランダム化比較試験、クロスオーバー研究などがある。

(取材・まとめ:編集部)

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