2015年02月26日 公開

世界初、英議会で承認された「卵子核移植」とは?

遺伝病を予防も「3人の遺伝子持つ子」が誕生

 英上院が2月24日、下院に続いて賛成多数で承認した「卵子核移植」。合法化されるのは世界初だが、いったいどんな技術なのか―。母親から遺伝するミトコンドリア病が子供に伝わるのを防げる一方、母親以外の女性から提供された卵子を使うため、生まれた子供は両親とその女性の「3人の遺伝子」を持つことになるという。これに対し、キリスト教のカトリック教会や英国国教会(聖公会)が倫理的な問題があるとして抗議しているなど、反対の声も根強いようだ。

母親からしか受け継がれないDNAに変異

 ミトコンドリア病は、全身の細胞一つ一つにあってエネルギーを作っているミトコンドリアの働きが弱まり、細胞の活動が低下する難病(特定疾患)。症状は、脳卒中や心臓病、痙攣(けいれん)、精神症状、発達の遅れ、目や耳が聞こえない、運動ができない、疲れやすいなど、全身に及ぶ。特に、脳卒中を中心とした「MELAS(メラス)」と呼ばれる病型が最も多いとされ、国立精神・神経医療研究センターによると英国やフィンランドで10万人に4~6人、日本では500~800人が悩まされており、英紙ガーディアンによると英国内で年間150人の子供が死亡しているという。

 この病気はミトコンドリアのDNAが変異することで起きるもので、母親から遺伝する母系遺伝性疾患とされている。というのも、精子にも卵子にもミトコンドリアDNAが含まれていながら、精子のミトコンドリアDNAは卵子の中にほとんど入れないからだ。もし入ってしまっても、消えてしまうといわれている。ミトコンドリアDNAを調べると母系の先祖がたどれ、「全人類に共通の祖先のうちの一人がアフリカにいた(ミトコンドリア・イブ説)」とされるのはこのためだ。

 ただし、ミトコンドリア病に関しては、母親が発症していても子供は発症しない、もしくはその逆もあり得るとされている。

母親由来の核を他人の卵子に移植

 そこで注目されているのが「卵子核移植」。(1)健康な女性から提供された卵子から核を取り除き、母親の核を移植、父親の精子と体外受精させるものと、(2)提供卵子と父親の精子による受精卵から核を取り除き、そこに母親と父親による受精卵から取り出した核を移し、母親の子宮に戻す―という2つの方法ある。

 母親の異常があるミトコンドリアDNAが取り除かれるため、ミトコンドリア病が子供に伝わるのを防げるとされる。

 一方で問題とされているのが、卵子を提供した女性の遺伝情報を含む"3人の遺伝子を持つ子供"が誕生することだ。ミトコンドリアDNAは2万塩基対くらいでDNA全体(30億塩基対)の0.01%未満だが、両親のほかの遺伝子も受け継ぐことがもたらす影響は、子孫も含めて確定していない。

染色体異常あった例も...

 英BBCが昨年8月、卵子核移植について報じた記事によると、"3人の遺伝子を持つ子供"は世界に30~50人。そのうち、この分野で高名な米国のジャック・コーエン医師は、公表されている米ミシガン州に住むアラナ・サーリネンさん(13歳)をはじめ15人の健康な赤ちゃんを誕生させたが、一方で染色体異常があるため中絶や流産となったケースが2例あったという。

 また、ミトコンドリアDNAは体形や運動能力などに影響すると考えられており、親が望む外見や能力を持たせる「デザイナーベビー」につながる可能性も懸念されている。こうした倫理的問題からも、カトリック教会や一部でカトリック教会の信条などを受け継ぐ英国国教会などのキリスト教団体だけでなく、市民から議員に至るまで反対や慎重論を主張する声は少なくない。今回の承認はこうした反対意見を抑えてのもので、ミトコンドリア病によって子供を失った家族からの支援も少なからず影響を与えたとみられる。

 核移植は"卵子若返り法"などとして国内で報道されたこともあったが、今回、英国で承認されたのはあくまで、ミトコンドリア病を持つ母親が妊娠を望む場合のみ。日本はもちろん、コーエン医師が15人誕生させた米国でも全州で禁止されている。英国での決議を受けて各国政府がどう反応するのか、注目される。

(小島 領平)

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