2015年12月24日 公開

がん患者本人が驚いた海外の医療事情とは―学会で報告

日本人初の患者代表アワード受賞者・山岡鉄也さん

 品質の差こそ少ないものの、日本と他の先進国の医療事情はさまざまな点で異なる。そうした違いを最も感じる病気の一つが、がんではないだろうか。国際肺癌(がん)学会の患者代表アワードに日本人で初めて選ばれた肺がん患者、山岡鉄也さんは、米コロラド州デンバーで開かれた同会議の会合で、大きな衝撃を受けたという。11月28日に横浜市で開かれた日本肺癌学会の会合の患者・家族向けセミナーで報告した。また、医師の立場から岐阜市民病院がんセンターの澤祥幸診療局長も、患者支援(アドボカシー)の重要性を訴えた。

患者団体の活躍と患者中心のがん医療政策

 山岡さんは、2010年7月に転移のある重い肺がん(ステージ4の肺腺がん)と診断された。いったん休職して治療に専念したが、現在は治療を続けながら出版大手の日経BP社で仕事に従事している。自らの経験を生かして、がんになっても働きやすい社会の実現に向けた活動もしており、その功績が認められ、今年8月に国際肺癌学会の「アドボカシー・トラベル・アワード」に日本人で初めて選出。今年9月にデンバーで開かれた同学会の会合「世界肺癌会議」で授賞式が行われた。

 その世界肺癌会議に出席した山岡さんが驚いたのは、患者団体の活躍と患者中心のがん医療政策だ。例えば、一般の地域病院に先進医療のエリートチームを派遣して肺がん医療の質の向上と地域病院のネットワーク化を進める構想や、肺がんの早期発見のための研究助成、さらには治験の設計にも患者団体が関与している。また、支援活動を積極的に展開している患者や患者団体の発表に、会場は万雷の拍手を送った。どんな立場だろうと、ここでは肺がん医療の向上に努める者がヒーローなのだ。

 それからもう一つ、山岡さんが気になったのが、世界肺癌会議では製薬企業の展示を含む全てのプログラムに患者や家族が参加できること。日本では薬事法の「広告の制限」によって、企業の展示ブースや共催セミナーに患者や家族が参加することは禁止されている。しかし、世界肺癌会議では制限がなく、むしろ制限されていたのは政府関係者や行政関係者であり、ここにも患者中心の考え方が貫かれていたという。

 情報提供と広告宣伝の境界の解釈は難しく、現在、日本では少しばかり踏み込んだ情報提供も宣伝に当たるかもしれないと、製薬企業が自主規制している面がある。しかし、患者中心の立場からは、いかなる情報も開示されるべきだと山岡さんは指摘する。

 ただし、患者にもがん医療に対するリテラシー(正しく理解して活用すること)が必要だ。医療者と対等とまでは行かなくても自分の病気を理解し、治療計画も意識としては主治医任せにせず、自ら主体的に取り組むことが重要と山岡さんは強調した。

日本でも患者支援の確立を目指す

 日本人の2人に1人ががんになる時代。2007年に施行された「がん対策基本法」では、「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんと向き合い、がんに負けることのない社会」の実現がうたわれている。がん医療の向上には、行政、企業、がん患者を含めた国民一人一人の理解も重要だ。

 こうした中、澤祥幸医師が特に力を入れているのが患者支援(アドボカシー)活動だ。患者の権利を守り、患者の前に立ちはだかるさまざまな問題の解決を支援していく活動で、あくまでも主役は患者となる。

 「従来、がん患者さんは医療を受ける側であって、自分自身が医療を作る立場ではなかったのですが、今は変わってきている。がん患者さんが自分たちが望むことを医療に反映してもらう。そういう活動をしなければいけない時代」と澤医師は言う。その根底には、医師も患者も自分一人では生きられない、自分一人だけでやれることには限りがある、との思いがあるという。

 患者支援の進んでいる欧米では、患者団体・支援団体が自らの資金で臨床試験を行ったり、がん関連の学会に参加してセッションを持ったりしている。ともにがん医療の向上を目指す一員として、医療に何を期待するかだけでなく、自分たちに何ができるかを議論しているのだ。澤医師はそうした活動に強く賛同しており、国際肺癌学会ではアドボカシー委員を務め、日本でもその普及に尽力しているところだ。

 2017年の世界肺癌会議は横浜市で開催される予定で、山岡さんはそのアドボカシー・プログラムに協力してほしいと頼まれている。山岡さんはこれも一つの使命として「澤先生にご協力いただきながら、ホスト国としていろいろと考案していきたい」と語っており、今後の動向が注目される。

(文・写真/北田周平)

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