2016年05月10日 公開

トランス脂肪酸は本当に危ない? 管理栄養士に聞く

 悪玉コレステロール、動脈硬化...ネガティブ効果いっぱいのトランス脂肪酸は、米国では2018年までに全廃を目指しているほど。実際、どれくらい危ないのか―。栄養の専門家である、管理栄養士の山野綾子さんに聞いた(関連記事=トランス脂肪酸、死亡や心臓病の危険度が2~3割上昇)。

トランス脂肪酸は食べるメリットなし

――トランス脂肪酸とは一体どんなもの?

 トランス脂肪酸には2種類あり、天然のものと人工的に作られたものがあります。人工的に作られるものは、大豆、菜種、トウモロコシ、パーム(ヤシ)などの植物油に水素を添加して固めた「硬化油」を製造する過程で生じます。

 硬化油は、カンタンに言えば、液体の油を固体に人工的に変えたものです。硬化処理によって、油の酸化による劣化や温度変化による食品の変質を防ぐことができます。また硬化油は工業的に使いやすく、サクサクとした食感などを生み出すメリットがあり、多くの加工食品に使われています。

 なお、牛やヒツジ、ヤギなどの反芻(はんすう)動物の脂肪にもトランス脂肪酸は含まれますが、人工的に作られたトランス脂肪酸に比べると、含有量は多くありません。

――トランス脂肪酸のメリット・デメリットは?

 トランス脂肪酸は体内で代謝するシステムがなく、食品から取る必要がないと考えられているため、メリットはありません。一方で、血液中のLDL(悪玉)コレステロールを増やし、HDL(善玉)コレステロールを減らすため、動脈硬化の原因となっていること、冠動脈疾患(主に狭心症や心筋梗塞)の発症リスクが高くなることが明らかになっています。

――トランス脂肪酸が多く含まれる食品は?

 硬化油を原料とするマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングは特に含有量が多く、バター、サラダ油にも比較的多く含まれています。油脂類以外で、トランス脂肪酸の含有量が多い加工食品は、生クリーム、コーヒーフレッシュなどのクリーム類、ケーキ、パイ、ドーナツ、クッキーなどの洋菓子類、マヨネーズ、クロワッサン、ポップコーン、カレーやシチューのルーなどで、いずれも油脂の含有量が多い食品です。

 また、油が酸化しにくく、食感が良くなることから、ファストフードのフライドポテトなどの揚げ物、インスタント食品、レトルト食品にも多く含まれています。

米国では2018年に全廃も...日本の対応は未定

――米食品医薬品局(FDA)は2018年までに、加工食品から全廃するようメーカーに指示しました(関連記事=トランス脂肪酸全廃へ、年間2万人の心筋梗塞予防効果―米当局)。国内はどんな状況?

 米国やカナダ、韓国などではすでに、加工食品へのトランス脂肪酸含有量の表示義務が定められています。特に米国では、トランス脂肪酸の取り過ぎによる心臓病が多いされているため、2008年より段階的に使用制限を増やし、最終的には全廃させるよう政府により指針が発表されています。

 日本人の平均的な摂取量は米国人の約6分の1で、国際的に推奨されている上限量の半分程度です。他国に比べて摂取量が少ないという点から、日本では現在、トランス脂肪酸に対して食品表示義務や使用制限などは定められていません。

 しかし、脂肪の多い食品の食べ過ぎなど偏った食事をしている場合には、健康を害する要因ともなるため注意が必要です。

――トランス脂肪酸入り食品との付き合い方で気を付けたい点は?

 食生活が多様化した現代では、日本型の食生活が中心だった昔より、トランス脂肪酸を含む脂質の摂取量が増えていることは明らかです。まずは、脂質の取り過ぎに注意が必要ですが、脂質は体の最小単位である細胞一つ一つを包む細胞膜の主な成分のため、体にとってなくてはならない栄養素でもあります。

 例えば、魚に含まれるEPAやDHAも脂質ですが、これらはHDL(善玉)コレステロールを増やし、LDL(悪玉)コレステロールを減らすなど、トランス脂肪酸とは逆の働きをする、体にとって良い脂質です。脂質を取るならばそうしたものを選び、トランス脂肪酸が多いお菓子や加工食品はできるだけ控える必要があります。自宅で食事を作ることが最もトランス脂肪酸の摂取量を減らすことにつながりますが、難しい場合には揚げ物や油脂の多い食品を選ばないように気を付けましょう。

 なお、近年マーガリンやファットスプレッドを製造するメーカーでも、トランス脂肪酸含有量の少ない製品を販売する傾向にあります。そうしたメーカーの商品を選ぶということでも、トランス脂肪酸の摂取を減らす一つの方法となります。

 ちなみに、農林水産省が実施した調査研究(2008年)から、日本人のトランス脂肪酸の推定平均摂取量は1日当たり0.92~0.96グラム。世界保健機関(WHO)が推奨する「総エネルギー摂取量の1%未満」で、「通常の食生活では健康への影響は少ない」模様。また、平均的な日本人の摂取量では、病気になる危険性との関連性が明らかにされていません。そのため、今後トランス脂肪酸を全廃するかどうかについては、定かではありません。

 大切なのは、トランス脂肪酸との上手な付き合い方。過剰摂取にならないように、十分注意しましょう。

(まとめ/蒼木学)

山野綾子(やまの・あやこ)

一般社団法人健康栄養支援センター(HNS)美容栄養部部長、美容食インストラクター。管理栄養士、美容栄養学専門士、関西コレクションエンターテイメント美容栄養学講師、フードコーディネーター2級、調理師。各種栄養・料理関係の講師、メディアで栄養解説なども行う。公式ブログ「Healthy & Simple Life」。