2016年06月28日 公開

医学用語だけど「奇形」はNG?

小児科学会の提案で日本医学会が言い換え検討

 医療・医学の現場で使われる専門用語は、患者にとっては分かりづらいこともしばしば。とりわけ小児科では、たとえ医学の専門用語であっても、子どもに誤解を与えてしまったり、親の心情を傷つけてしまったりする場合があるようだ。そのような状況の中で、日本小児科学会は日本医学会に対して「奇形」および関連する医学用語の言い換えを提案、現在、日本医学会で検討が進められている。第149回日本医学会シンポジウム「医学用語を考える〜医療者・市民双方の視点から〜」に登壇した、日本小児科学会の用語小委員会委員長で、日本医学会医学用語管理委員会委員でもある森内浩幸教授(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科小児科学)がその背景を解説した。

子どもは語彙力が足りずストレスが身体症状に

 子どもの語彙力は、大人に比べて大幅に少ない。森内教授によれば、語彙数は平均的な大人が3万語以上であるのに対し、小学校1年生に相当する6歳でもわずか2〜3千語程度という。一方、日本医学会による「医学用語辞典」に収められている用語は約7万語に上る。

 子どもは語彙数が少ないので、言葉の理解度も低く、「3歳程度では病気に対する理解はできず、自分が何か悪いことをしたから罰を与えられている、と捉えることがある」と森内氏。病気の原因に細菌やウイルスが関与していると理解し始めるのは就学直前の5,6歳ころからだという。

 こうした語彙力不足は子どもにとっては心理的ストレスになり、心身症と呼ばれる身体症状として現れることがある。「大人の場合、心理的ストレスを言葉で認識し、悩みという形で処理していく。しかし、子どもの場合は(心理的ストレスを)言葉では認識できずに体で受け止めてしまうため、頭痛や腹痛などの身体症状として出てしまう」と森内氏は説明。どのような言葉や表現が子どもに理解しやすいか、同氏は日々、試行錯誤を繰り返していると打ち明けた。

医学的に違和感なく、患者・家族に配慮した言い換えを

 また、医学用語には、一般社会で「差別」や「侮蔑」と受け取られてしまうものもある。かつて「痴呆」が「認知症」に、「精神分裂病」が「統合失調症」に言い換えられるに至った背景も同様だ。そして、このほど、日本小児科学会の提案により、「奇形」および関連する医学用語について、日本医学会で言い換えが検討され始めている。

 奇形とは、生物が発生する過程で遺伝または非遺伝的原因によって外観や内臓などの形態に異常が生じることを指す医学用語だ。そこに差別的な意味合いは含まれていないが、自分の子どもが「奇形」と言われて心情が傷つく親がいることもまた事実だ。この他、形態異常を引き起こす類語としては「変形」「変成」「欠損」などがあるという。

 森内氏は「医学的な正しさにこだわり、患者や家族の心情を無視すべきではない。その一方で、医学的に違和感が強すぎたり、病気ではないように扱ったりすることにもデメリットがある」と指摘。今回、言い換えを検討する過程において「バランスの取れた議論で本年(2016年)度内には着地点を探って行きたい」と抱負を述べた。

(松浦 庸夫)