2016年08月16日 公開

握力や歩く速さが認知症リスクに関係

 今や認知症の患者数は、日本だけでなく世界的に増加している。社会的レベルでも個人的レベルでも早急な対策が求められているが、認知症を予防するための確かな方法ははっきりと分かっていないのが現状だ。これまでの通説では、太っている人よりも痩せている人の方が、また筋肉の量が多い人よりも少ない人が認知症を発症するリスクが高いとされてきた。しかし、将来の認知機能低下リスクには骨格筋量よりも握力や歩く速さなどの身体機能が強く関係することが、東京都健康長寿医療センター研究所のグループによる研究で明らかになった。同研究グループの谷口優氏に、認知機能の低下と身体機能の関係について話を聞いた。

きっかけは高齢者の体格と身体機能のアンバランスへの疑問

―研究のきっかけについて教えてください

 高齢者では一見体格がしっかりしている方でも、身体機能のパフォーマンスが悪い人がけっこういることに疑問を持ったことからです。そこで骨格筋量、身体機能、サルコペニア(加齢と関連して筋肉量が減少し、筋力や身体機能の低下が起こる症候群)の3つの項目について認知機能との関連、さらに将来の認知機能低下の目安となるかを検討しました。対象は介護予防健診(群馬県吾妻郡草津町実施、通称、にっこり健診)を2008~2011年に受診した65歳以上の高齢者2448人としました。

―身体機能、骨格筋量、サルコペニアと認知機能にどんな関連性がありましたか?

 調べたところ、いずれも強い関連性がみられました。従来いわれてきたように身体機能が低い(握力が男性26.0kg以下、女性18.0kg以下、通常歩行速度が0.8m/秒以下のうち1つ以上を満たす者)、骨格筋量が少ない(電気抵抗により脂肪・筋肉・骨の体組成を測るBIA法で男性7.0kg/m2以下、女性5.7kg/m2以下に該当する者)、あるいはサルコペニアの高齢者では認知機能が低い傾向にありました。

 一方、身体機能および骨格筋量と将来の認知機能低下の関連性を見ると、身体機能が低い高齢者では将来認知機能低下になりやすかったのですが、骨格筋量とは関連はありませんでした。

身体機能低下×骨格筋量正常が将来の認知機能低下の高リスク

将来、認知機能が低下するリスクで分かったこととは?

 さらに、身体機能と骨格筋量の違い別に群にし、群別に分析を行った結果、低身体機能かつ低骨格筋量(サルコペニア)群のリスクは、身体機能と骨格筋量が共に正常な群に比べて1.6倍高いことがわかりました()。最も大きなリスクを示したのは、低身体機能かつ骨格筋量正常群の2.1倍で、体格がしっかりしていても身体機能が低い人で将来の認知機能低下が発生しやすいことが分かりました。

体格より活動性の低下に注目すべき

この結果をどのように解釈すればよいですか?

 現在見た目が痩せていなく、体格がしっかりしている高齢者でも、身体機能が低下していれば将来的に認知機能が低下するリスクが高いことを示していると考えられるでしょう。活動性が低下している高齢者の中には、脳からの情報伝達が障害されている場合があり、将来の認知機能低下につながると考えられます。

日常での身体機能の低下のサインは?

 握力であれば、日常生活の中で「買い物袋を持ち歩くのが困難になった」「ペットボトルのキャップが開けにくくなった」などがサインとなります。また、横断歩道に設置されている信号機は、正常な歩行速度であれば問題なく横断できるように時間が設定されていますので、以前は無理なく渡ることができていたが徐々に難しくなってきたのであれば、歩行速度が落ちたと判断できます。

認知機能低下を食い止め認知症への進展を防ぐ

認知機能低下を防ぐために日常で気をつけることはありますか?

 認知機能低下が発生すると、その後認知症になる可能性は高くなります。しかし、認知症になる前の段階(軽度認知障害)であれば、3~4割程度の方は正常な状態に回復するといわれており、認知症への進展を防ぐことが可能です。

 認知機能低下や認知症予防に有効なのは、栄養価の高い食事により十分な栄養を取ることと、運動により脳に酸素や栄養を送り込むことです。運動や食事の状態を見直すことで理想的な生活習慣を身に付けることは、年齢とは関係なく、いつ始めても構いません。

 とはいえ、歳を重ねると体に不具合を感じることが増えるので、体を動かしたり良い食事をする機会が減ってしまいます。そのため、若いうちからウォーキングやジョギングで体を動かし、バランスの良い食事を摂る習慣を身に着けておくと、高齢期になっても心身機能を良好な状態に保つことができると考えられます。

(伊達俊介)